Archive for September 2009
きみのもしもし #122
ー夜更かしばかりして、もしもし、わかってる?
ー大丈夫、明日は遅刻しないから。
ーそろそろ、寝てね。
ー大丈夫、もう少ししたら寝るからさ。
ーその大丈夫で、昨日は遅刻でしょ。
ー明日は大丈夫。
ーもーっ、もしもし、わかってる?
ーほんと大丈夫だから。
ーだったらもう寝ましょ。
ーうん、あとちょっと本を読んだらすぐ寝るよ。
ーそれって、すぐって言わない。
ーだいじょーぶ。
ーもしもしっ、知らないからね。
そしてきみからのメールは途切れた。
明日の買い物お付き合い、絶対遅刻はできないな。
あと10数ページ、読んだら寝るからさ。
COCO CHANEL
ココ・シャネル。シャーリー・マクレーンとバルボラ・ボブローヴァ。もっともっと壮絶な人生だったと想像しますが、伝記作品としては十分に楽しめました。文化村で10/9までですね。思っていた以上にロングラン。よいですよ。もうひとつの「ココ・アヴァン・シャネル」はアメリのオドレイ・トトゥ主演だけどどうだろう。
そう今年はCHANEL100周年で3作品が上映されますね。
1.『ココ・シャネル』(2009年、アメリカ合衆国)8/8から。
2.『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年、フランス)9/18から。
3.『シャネル&ストラヴィンスキー』(2009年、フランス)来年お正月予定。
たまには躍らされてもよいのかな。
きみのもしもし #121
ー今すぐいらっしゃいよ。
きみのメール、ひとことこれだけ。
行くのはいいんだが、何だろう。
ーさんま買ってきたの。
どこで焼くんだろう。部屋中匂うだろうし。
きみのマンションに向っていると、どこからともなく声がした。
「もしもーし」
きみの部屋に視線を向けるが、開け放たれた窓からレースのカーテンが揺れているのがわかるだけ。
「もしもーし、こっちこっち」
もっと上を見上げると、マンションの最上階の上に手を振るきみが見えた。
ーわたしも昨日知ったのよ。屋上に出れるの。
屋上でさんまを焼くんだな。
ぼくはビールを買おうと手前のコンビニに入った。
Midnight Zoo #26
航は何が起こっているのか、整理しようと珈琲に口をつけた。
航の部屋からは窓ガラス越しに視界を邪魔するものはない。バス通りを挟んで直線距離にして歩けば10分ほどのところに丘がある。丘の斜面には戸建ての家が点在している。もうこの時間だと点在している家の灯もほとんどなく、丘を照らしていた月明かりも雲に隠れつつあった。
ーひなのは元気かな。
唐突にひなののことが脳裏をかすめた。
すると最近会っていない瑛太のことも気になり始めた。
ーふたりはちゃんと続いているよな。
そう思いながら、自分と桜子の関係を思い出してみる。
相談事もするし、何かあれば連絡もくる。
涙を見た事もあれば、見られたこともある。
けんかをしたことがないと言えば、うそになる。
セックスもする、キスもする。触りあうことももちろん。
お金の貸し借りだけはない。
好きだと、愛していると、口にしたこともない。
そして、まったくコンタクトを取らなくなったことも何回かある。
料理は作ってもらったことしかない。
ー付き合ってるんだろうな。
公園で話をはじめた桜子の顔を夜の窓ガラス越しに思い出してみる。
「いとおしい」
ライトダウンされたキッチンに人気を感じた。
航はリビングのソファに座ったまま、視線をキッチンに向ける。
「それは愛おしいっていうんだよ」
キッチンに輪郭が浮かび上がった。でも顔は判別できない。
「いいなぁ、そう思ってくれるひとがいるって」
肩より少しだけ長い髪が、なんとなく見て取れる。
「わたしのこともそう思ってくれないかなぁ」
「ぼくがそう思えば、きみは救われるのかな」
「うぅん」
輪郭が首を横に振ったように見えた。
「同情じゃだめ。それにわたしのことだけを愛おしく思ってくれないともっとだめ」
「きみのことをぼくは知らない」
「わたしはあなたのことを知っている」
航はソファから身を乗り出した。
「どうして知っているの。きみが藤崎晴香だから?」
輪郭は少しだけ沈黙の時間をとり、航はまだ近寄ってはだめだと直感しソファに座り直した。
「今はまだ完全に晴香じゃないけど」
ゆっくりと話す輪郭の口調に航は冷気を感じた。
ーもしかしたら。
そして、闇夜を写している窓ガラスに視線の先を変えた。
(続く)
