Archive for October 2009
きみのもしもし #124
ーこんな時間に何をやっているんだろう。
自分自身に問いかける。
「ちょっと歩きすぎたかな」
たくさんたくさんきみと歩いて、ここにたどり着いて、ぼくは冷蔵庫のジンに柚子を搾って喉を潤した。
柚子の香りに誘われて、きみも一緒にジンを口にする。
「先に寝てるね」
「ぼくはも少しだけ」
そうは言ったものの、歩き疲れたぼくも気づくとソファーでうとうとと。
そして今、水滴のついたジンのグラスを目の前に、ぼくは妙に目が冴えている。
ー本でも読むか。
きみの本棚からてごろな本をさがしてみる。
「どしたの」
きみを起こしちゃったかな。
「目が冴えちゃって、何か本でも読もうかなと」
きみは少し間をおいて、唐突な提案をしてくる。
「わたしに本を読んで聞かせるってのはいかが」
「絵本?」
「違うよ。普通の本、どれでもいいわ」
きみはぼくの横に立ち、本棚から一冊の本を抜き出した。
「これがいいな。これにしよっ」
そしてぼくにその本を手渡す。
「わたしベッドで横になるから耳元で読んで聞かせてね」
ぼくが本ときみとを交互に見ていると、
「もしもし、襲っちゃだめだよ、ちゃんと寝つくまで読んでね」
きみは笑っていた。
BURN AFTER READING
バーン・アフター・リーディング。ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、ジョン・マルコヴィッチ、フランシス・マクドーマンド 、ティルダ・スウィントン、エリザベス・マーヴェル、リチャード・ジェンキンス、J・K・シモンズの豪華キャストのブラック・コメディ。確かにJ・K・シモンズ演じるCIA上官が「クソややこしい話」というような話だけど、そう感じさせないのが監督コーエン兄弟(ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン)の技量ですね。実際はこんな人いないよって人たちが織りなして違和感なく感じさせるところはさすが。でもね、やっぱり、なんだかねぇ。( さてと次はDAISYか )

A MOMENT TO REMEMBER
私の頭の中の消しゴム。チョン・ウソンとソン・イェジンの純愛映画。元となったのは永作博美と緒形直人の「Pure Soul 君が僕を忘れても」。でもね、あんなに優しくて硬派でかっこよければ、みんな恋しちゃいますよ。あのカップルの存在自体があまりに現実味ない、うらやましすぎるので、感情移入ができませんでした。秋の夜長、号泣してみようかなと思ったのですが無理でした。チョン・ウソン見て、ぼーっとするにはよいかも。
次はチョン・ウソンと「猟奇的な彼女」のチョン・ジヒョンの共演の「DAISY」かな。おっとその前に・・・
おや?サイトを移動してからAmazonへの商品リンクがことごとく非表示になっていますね。うーむ。これでまっいっか。

Midnight Zoo #28
ーわたしが希望して、わたしが存在しているわけじゃないのよ。
航はだまって頷きながら、その女性の次の言葉を待った。
ーあの子も、そう昼間のあの子も希望してわたしを生み出したわけじゃないし。
でも、窓ガラスに映るその女性の表情は活き活きとしているように、感じた。
ー母親の淫らな、そうね、あのときは淫らなんて思いもよらなかったんだろうな。怖くって自分も襲われちゃうって感覚が、父親に助けを求めたのね。
ため息が聞こえてくるようだった。
ーそしてわたしが父親のもとへ飛んだ。
ーちがうわ。
ーまだ、そのときはわたしじゃなかった。
ーあの子の意識が父親の場所に飛んだのよ。
ーあのときはまだわたしはあの子の意識の中にいたのか。うーん、よく分らないわ。
ーただ、あの子はさみしくなると、ひとりでいることに押しつぶされそうになるとその度に、会いたい人に向けて意識を飛ばしだしたのね。意識を飛ばせば会いたい人に会えるってわかったから。時間を誰かと共有することで自分を救おうとしてね。
ーすごいことよ。さみしいって気持ちが意識を飛ばせるようにしたんだから。
ーそれを繰り返して、いつの間にか、それを楽しいと思うようになったのね。
ーそれがいいことだったのかはわたしにも分らないわ。
ーでも、その繰り返しがわたしを覚醒させたのかなぁ。
ーて言うか、覚醒って言うよりももうひとりのあの子が、あの子の寝入った後にその楽しいことを楽しみはじめた。
ーそれがわたし。
「でも、助けて欲しいとぼくに言ったんだよ」
航は饒舌すぎるその女性に少し反論してみた。
ーそれはあの子。
ーもともとあの子が飛ばしている意識がやっていることを、わたしがやっているだけ。
「あの子の意識が今のきみだと」
その問いかけにはその女性は答えなかった。
ーでもね、いろんなものを見ていると、思うのよ。
ーわたしだったらもっと積極的にいろんな人と話ができる。好きな人ができれば告白もしたいって思うじゃない。
ーだからわたしがあの子になるの。あの子がもう一歩だけ踏み出せなかった、その一歩をわたしだったらかるーく踏み出せるもの。
ガラス窓の眼が光り、航は足元に爬虫類の肌の冷たさを感じた。
ーそう、わたしがあの子になって、するともうあの子はもういらないのよ。
ー存在そのものをわたしだけにする。
ーだってうじうじした性格なんて、うっとうしいだけじゃん。
ーそれに藤崎晴香がふたりもいたんじゃ、みんなが混乱するでしょ。
ーわたしがもっともっとあの子の人生を楽しいものに変えるの。
ガラス窓の口元が笑っている。
ーあら?そのときはもうあの子の人生じゃなくて、わたしの人生ね。
ー皮肉なものねぇ。あの子の意識から生まれたわたしがあの子の人生を楽しいものにして、でもそのときにはあの子はもう楽しいってことが分らない。
ーふふふ。ね。
「でもさ」
航は桜子から聞いた晴香の話を思い出し、ガラス窓に向って話しかけた。
(続く)
