風、空、きみ

talk to myself

Midnight Zoo #29

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 重苦しい公園の空気、航も桜子も感じていた。そして目の前に拡がる公園に対して身構えるように桜子は航の腕をぎゅっとつかんだ。
「気のせい?気にしすぎ?」
「いや、そうじゃないよ、たぶん桜子と同じことを感じていると思う」
 航は桜子に左腕をまくり上げて見せた。航の左腕には鳥肌が立っている。
 桜子はその腕を目にすると、唐突に、でも肩の荷が下りたように夕べのことを口にし始めた。ただ桜子も、そしてその話しに耳を傾ける航も公園の入口から一歩も中に入ろうとしない。とくに桜子の視点は公園の中に向いたまま、そのまま淡々と話し始めた。それは航に話して聞かせているというよりも、レコーダーから期せずして古い音声が流れ出したような、誰に向って音が鳴っている、何のために再生が始まったのかわからない、声と言うよりそんな機械的な音だった。
ー桜子はどこを見て話しているんだ?
 航は公園の中をじっと見つめながら話し続ける桜子の横顔を見つつ、それでも桜子の言葉を聞き漏らさないように聞き入っていた。今ここで「桜子、どうしたんが一体」と月並みな台詞で桜子の意識を自分に戻したとしてもなんにもならない、航はそれだけは自分なりに確信していた。とにかく情報をひとつでも多く手に入れないと、それからじゃないと今の桜子も楽にしてあげられないし、鏡の中のあの子もきっと救えない。だから航は平常心を装った、桜子が話すのは当たり前のような表情で桜子の話に耳を傾けた。でも航は桜子の手を握っている右手の力を少しだけ強めていることに気づいていない。

「ずっとひとりだったの」
 航は口をはさまないように聞いていた。
「好んでひとりでいたいわけじゃないのよ」
「幼い頃母親や父親との間にあったことがトラウマになっていると思うの」
「それがきっかけで夜いろんな人に会えるようになったんだ」
「最近はそれが怖くなってるんだけど」
「いつのまにか自分が自分でコントロールできなくて」
「そのうち自分じゃなくなるんじゃないかと」
「自分がここにいることを、ここに存在していることを覚えててもらいたい」
「わたしの存在に気づいて欲しい」
「知り合いにならなくてもいいの」
「その子知ってるよ、見たことあるよ」
「そのくらいでもいい」
「でも、少しだけでも話せて、やっぱり知りあいになって、輪に入れてもらって、そして連絡を取り合えるような友だちになれれば」
「だからあなたのその口紅、わたしもしたいなぁ。だってとっても綺麗で印象的なんだもん」
「わたしがつけてもみんな振返ってくれるかなぁ。綺麗に見えるかなぁ」

「航、痛い」
 航がその声に我にかえると、桜子がつないだ左手を航の目の前まで持ち上げていた。
「痛いよ、航。手をつないでくれるのはとってもうれしいけど、ちょっと強すぎ、手が痛いもん」
 桜子がちょっと困ったような表情で、そっと包んでねと言っている。
「ごめんごめん」
 航はつないだその手の力をそっと緩め、同時に桜子を自分の胸に引き寄せた。
「ありがとう」
「何、どうしたの航、、、はずかしいよ」
「少しだけ見えた気がしたんだ」
「何?何?」

 いつしか公園では子供たちが走り回っていた。若いおかあさんがその子供たちを優しく見守っている。笑顔で歩いているカップルも見える。ベンチではおじいさんがおばあさんと日向ぼっこをしているようだ。
「こんなとこでいちゃついてるー」
 少年が唇を重ねた航と桜子をからかうように公園に飛び込んでいった。

(続く)

Written by ken1

2009/11/01 at 10:17

Posted in zoo

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