Archive for November 15th, 2009
omedetou, happy wedding
xmas@ginza
Midnight Zoo #30
桜子から公園で聞いたあの子の気持ちを、航は窓ガラスに映るこの女性に伝えようと思った。
「でもさ、あの子、藤崎晴香もその一歩を自分から踏み出そうとしているんだぜ」
窓ガラスの女性の表情が変わったように航は感じた。
「現実の自分の存在をどうにかして周りに知ってもらおうとしているのは、きみも知っているだろう」
ー知っているわ。
苛立たしい感情が伝わってくるかと、航は想像していた。
が、窓ガラスに映っているのは寂しそうな表情だった。
ーだって、まだわたしたちはふたりとも存在しているんだから。それに母体はあの子の方だし。
ため息が聞こえた気がした。
ーあなたの彼女の真っ赤な口紅のことでしょ。
ーちょっと思い出してみてよ。不思議だと思わない?
航は視線を窓ガラスからそらし、あの夜のことを思い出してみた。
ーそんな考えなくても、簡単よ。
ー助けてと言いたいのはあの子。でも鏡に映っていたのはわたし。わたしはあの子と入れ替わろうとしている。助けてなんて言うわけないじゃん。ましてや彼女の口紅で鏡に助けてなんて書かないわ。つじつまが合わないでしょ。
「少なくともふたつのことが考えられるけど、ぼくは」
ー聞きたくないわ。
「知っているんだろ」
窓ガラスの女性が視線を反らしていた。そして何も答えようとしないし、答える気もない、そんな雰囲気だった。
「もっと複雑かも知れないけど、簡単なことだけでもふたつだよ」
航は勝手に言葉を続けた。
「桜子の部屋へ飛んできたきみを使ってあの子は自分の気持ちを伝えさせた。伝えさせただけじゃなく実際に口紅で鏡に文字を書かせたんだ。たぶんきみが気を抜いた一瞬か、もしくは意識の隙間をぬったか」
「でも、もうひとつはもっと簡単」
窓ガラスの影が揺れた。
航は優しくゆっくりと言葉を続けた。
「きみはぼくに話しすぎたのかも知れないね」
「きみ自身も助けて欲しいんだろ」
「きみはあの子のことが好きで、でもあの子はそれに気づいてないんだろうね」
「好きだからこそ助けたい。でもそれだと自分が消滅するかも知れない。自分の意識がいつしか芽生えちゃってるから自分を消滅させるなんて想像もしたくない。そうじゃない?」
窓ガラスの表情が揺れている。
「だからもっと簡単って言ったんだよ」
ーそうかもね。
「悪びることは簡単かも知れないけど、自分に素直じゃないから心が疲れるよね」
窓ガラスの女性がうつむき加減で首を横に振っている。
「きみがあの子を一番助けたいって思っている。それだけだよ」
(続く)

