Archive for December 26th, 2009
Midnight Zoo #33
桜子とのクリスマスの夜をすごした翌夜、航はひとり、初めて訪れるバーでグラスを傾けていた。
「何にいたしましょう」
「ジンは何がありますか」
航は若いけど落ち着いた感じのするバーテンダーから勧められたジェネバをロックでもらった。
ーメリークリスマス。
さっきまで口を少し開き吐息を漏らしていた桜子が、耳元でささやく。
ーメリークリスマス。
うなじに唇をつけ、クリスマスの言葉を返す。
桜子はまた吐息を漏らした後、くすぐったいと笑って航と向き合った。
ー何かいいことがあったみたいだね。
ーあのね。晴香さん、まだ治ってないの。もうひとりの晴香さんはまだいるんだって。
ーそれはいいことなの?
ーわからないけど、今のところふたりでうまくやっているみたいよ。何があったんだろうね。
航は「わからないな」と答え、シーツに潜って桜子の右の乳首をかるく噛んだ。
カウンターに8名が座れるだけのこのバーは天井も高く照明も薄暗い。背中側の通路もちょうど人が1人歩いて邪魔にならないほどの幅が確保されている。繁華街からも外れ、看板もなく、この場所を目指さないとたどり着けない、そんなお店だった。そして終電を途中下車しここに来た航は、航以外のお客もいなくひとり静かな時間に包まれていた。
来てみたかったんでしょ。
たまたまネットで見つけてね。この時間だったら入りやすいかなって。
わざわざ終電途中下車する?
タイミングってそんなもんさ。
計画性がないのよ。
言葉を音にすることなく、いつの間にか隣りにちょこんと座っている晴香と言葉を交わす。
晴香は頬杖をつき、じっと航を見つめている。目を凝らすと晴香の身体越しに隣の椅子が透けて見える。
航はグラスを傾けるたびに、そっとそんな晴香の存在を確認する。
晴香さんときみがうまくやりはじめていると桜子から聞いたよ。
そうね。だってひとつの身体なんだし。うばいあって、もしわたしが消えるようだともうそばにも来れないし。でもね。
ん。
航のそばにいたいのは、わたしだけじゃないのよ。晴香の方がきっと昔から航のそばにいたいと思ってたんだから。
グラスを口元に運ぼうとした航の手が止まった。
昔の晴香さんのことは記憶にないよ。
だと思う。
残りのジンを喉に通すと、航はここにいる晴香とじっと視線を重ねた。
(続く)
東京月光魔曲
シアターコクーンでBunkamura20周年記念企画の東京月光魔曲を観劇。ケラリーノ・サンドロヴィッチ書き下ろし、瑛太、松雪泰子主演の舞台を楽しみました。ケラリーノ・サンドロヴィッチ( 有頂天のKERAですね )の作品観劇は初めてです。ストーリーのつながりを理解するのに頭を使いましたが、それが楽しかったです。瑛太は声がすてき、松雪さんはほんときれい(でも細いなぁ)、蘭ちゃんもきれい、ユースケ、大倉孝二、犬山イヌコ、山崎一は上手だし。不条理なお話です。ただ終ってからの挨拶があまりに淡々としているのは何となく残念でした。みんなお互いのこと嫌いなのかなぁって、まぁそんなことないでしょうけど。休憩15分含んで19:00-22:30、ちとお尻が痛くなりましたとさ。