Midnight Zoo #38
桜子は洗面台で化粧を落としながら、スッピンに戻っていく自分の顔を見つめていた。
ぱっちりとした目、まつげのエクステンションは必要ない、と思う。
唇も厚すぎず薄くもなく、ピンク色で、口角を少しだけあげるとかなりかわいい、と思う。
洗面台のトップライトが肩までの黒髪を照らし、紫のカラーリングをしていることがわかる。
ー光が透らないと誰も気づかないわよね。
桜子は首を振り、ヘアサロンでほんの少しだけ短くしてカラーリングを入れた髪に触れた。
ーまったく航はなーんにも気づかないんだから。
先週、深夜に航がやってきて、わたしを抱いた。
その後でふたりでシャワーを浴びた後、この洗面台でまた抱かれた。
トップライトは点けたまま。
ーやることに夢中で、髪の毛なんてみてないんだろうな。
そうは思っても、ここでの行為を思い出し、服の上から両手でそっと両方の乳房を包み込む。
鼓動が早くなっているのを感じた。
リビングに戻った桜子はテレビを点ける。チャンネルは特に選ばず、ボリュームはいつもの半分、目的もなく何となく。
カーテンを開けると街の明りが見下ろせる。もう深夜だと言うのにまだまだみんな起きているんだろう。
ーどうしちゃったのかな、わたし。
何かがポカンと空いている。急に心に寂しさを覚え、誰かと無性に唇を重ねたくなった。
桜子はしばらく街明かりを眺めていたが、ため息をひとつつくとキッチンに踵を返し、冷蔵庫から残り物の総菜をテーブルに出した。次にキッチンのシンクの下に並べているアルコール類を確かめた。ジン、モルト、焼酎なんかの数本のボトルが並んでいる。すべて航がここにキープしているボトルだ。
ーここはお店じゃないっての。
でも今はこのボトルを見るだけでも、何故かほっとした。
そしてその中から一本のジンを手に取り、野菜室にあった檸檬を絞り、氷を入れた。
ー確かに航が言っていたとおりだわ。冷凍庫でキンキンに冷やしておくべきね。
ジンのボトルは冷凍庫が狭くなるからとシンクの下に移動させていたが、航の言い分も分る気がした。
桜子は目の前のグラスに少し首をひねり、
ーこれじゃ、きつすぎ。
缶コーラを冷蔵庫の奥から取り出し、ジンに加えた。
缶コーラも航の喉を潤すためにたまに買い置きしているもののひとつ。
ーいつのまにあいつはこんなに侵食してきているんだろう。
テーブルでお手軽ジンカクテルを喉にとおすと、ふと桜子は思った。
総菜をつまみに、ジンを口にしながら、目的もなくテレビを見ている。
今夜は仕事もそこそこに終らせ、ウィンドーショッピングで数店のショップを巡り、なんとなくモスバーガーを夕飯にして、ふらふらと帰宅した。
ー何かが足りない。こんなんじゃないよ。
桜子は足りない何かを見つけようと、総菜を一口、口に運んだ。
(続く)