Archive for April 2010
bike #4
なーんかね、この勾配とゆるーいカーブと街灯の下の自転車、とってもじゃないけど、なんとなく好きなんですよねぇ。少しフレーミングにしくじったようで街灯の灯が切れちゃってたりしてるけど、まっいいや。
Midnight Zoo #41
桜子と航はどちらからとも話し始めることはなく、河川敷の方を向いたテーブルに並んで腰かけて、珈琲を口にしていた。
ふたりでカウンターに座っているのではなく、このカフェでは少し大きめのテーブルが天井から床まで1枚構成になっている窓ガラスにくっつけてある。そのテーブルに並んで座っていた。
うららかな午前の遅い時間、でもまだランチにはちょっとだけ早い。河川敷に沿って延びている遊歩道で、散り終った桜が柔らかい新緑を見せ始めていた。
桜子はたっぷりのオーガニック珈琲が入ったカップを両手で包み、航はダブルのエスプレッソ珈琲を右手で持ち上げていた。
「ねぇ航」
桜子は視線を河川敷に向けたまま、抑揚のない声で、航に話しかけるというよりも独り言のように言った。その独り言に航はちょっとだけ桜子を一瞥しただけで、また珈琲を一口飲んだ。
「きれいな空だな」
航も桜子同様に、ぽつりと言った。
店内で食器のぶつかる音がもし重なっていたら、聞き取れなかったかも知れない。そのくらい、ぼそっとぽつりと言った。
ー確かに雲ひとつない、久しぶり青空だ。
桜子は葉桜を見ていた水平視線から、その上に拡がる空を改めて見て思った。
待ち合わせにしたこのカフェにくる間、どうして気づかなかったんだろう。
少し空気の冷たさは感じたけど、桜は花が終って葉桜になっていることもここに座って航を待つ間に気づいたくらい、空なんてまるで眼中になかったな。
どうしちゃったのかな。
桜子は珈琲を一口すすった。
左に腰かけている航もまた一口すすった。
ーあっシンクロだ。
だから何だってわけじゃないけど、桜子は何かうれしいと感じた。
「ねぇ航」
今度は少しだけ抑揚がついた気がした。
続きの言葉が決まったから。だから同じ言葉でも自分の声がさっきと違う気がした。
ー航もそれを感じたのかな。何?って眼をしてる。
「このあとわたしんちで」
あれ?どうしたの、わたし。
好きって言おうとしているのに。さらっとそれだけ言おうとしているのに。
「青空みながらセックスしない?」
でも、こんなにどきどきするの、ひさしぶり。
でもでも、どきどきって感じの声色じゃない。
「カーテン開けてさ、わたしが上になったり、航がそうしたり」
あれ?航が笑ってる。
「青空が視界にある、そんなセックス、どう?」
航は珈琲カップを左手に持ち替えて、右手で桜子の耳の後ろを触る。
そして桜子にキスをした。
「航ぅ、ここカフェだよ」
「そだね。でもおたがい様」
航はそう言って、また青空に顔を上げた。
(続く)
have a break
まぁいろいろとストレスが溜ってくると、ぼくはシャッター音を聴くことで、かなり発散されることが最近分りました。妙なものです。が、感覚的にはそんな感じ。デジカメじゃだめですねぇ。銀塩のあのシャッター音、なんなのだろう。まぁ何でもよいや、ひとに迷惑をかけずに発散できれば。そう思った今日の午後でした。
ちなみにこれはデジタルPENでの写真ですから、シャッター音とは無関係です。あしからず。ははは。掲載に選んだのはなんとなくです。
きみのもしもし #137
陽気に任せて、袖をまくり上げ、裏小道を歩いていると、
ーもしもーし。
きみからのシグナルがケータイを震わせる。
ーカメラ片手にお散歩かな。
そんなきみからのメールを読んで、ひとり微笑んでいるぼくは、すれ違う人にはどう映っているんだろう。
散り始めた桜の大木の下に、そこにいないはずのきみを想像し、ファインダーを覗く。
ー今度会ったら、わたしも撮ってね。
うん、この構図はいいな。
小気味よいシャッター音。
その瞬間、紋白蝶がファインダーの中を横切ったのが見えた。
ーいいところ見つけたよ。
桜の花びらの中に消えていった紋白蝶を目で追いながら、
ぼくはきみにメールを返した。
Midnight Zoo #40
晴香は夢の中で、桜子を見ていた。
眼を赤く腫らし、何かを押さえつけながら笑顔を繕っている桜子を見ていた。
桜子に自分が話しかけている。
遠い彼方で、耳に水が入ったときのような響きで、その声が聞こえてくる。
ーわたしは桜子さんに何を言っているのだろう。
眠っている晴香が寝返りを打ち、少しだけ眉間に皴を寄せる。夢の中に集中するために。
晴香はもうひとりの自分が今、桜子の前に居ることを知っている。
夢の中で、もうひとりの自分の行動を意識的に見ようとしている。
もうひとりの晴香、それは今、桜子の前にいる半透明の晴香、その半透明の晴香も眠っているはずの晴香の視線を感じていた。
ー邪魔はしないでね。
晴香は眠ったまま、奥歯を強く噛みしめた。
ー無理するから。どうしちゃったのかな。初めてじゃないの、もしかして。
そして、右手で強くシーツを握りしめた。
ー何をするつもりなの。
ーあれ?やっばり。この時間は完全に晴香はわたしのものじゃなかったっけ。
左手もきつく結ばれ、指が白くなっている。
ーだからって、やっていいことと、そうじゃないことが、あるでしょ。
半透明の晴香は桜子のテーブルから立ち上がると、そのままの姿勢で数歩だけベランダ側へ後ずさった。
「行かないでよ」
桜子は自分が何を言っているのか、よくわからないまま、でもひとりになるのが怖かった。
「行かないよ。大丈夫。もう少しだけここにいるから」
そこにいる晴香は優しく微笑みながら、そう口に出して答えた。
言った瞬間に自分の半透明度に濃さが増した気がした。
ー聞こえたでしょ。わたしはね、今、桜子さんに必要とされているんだよ。
ーつけこもうとしていない?
ー何をつけこむのさ。
ー航さんとの仲に水を差そうとしていない?
ー事実を話すだけだよ。
ー他人から知らされたくないことってあるんだよ。
ー誰かが教えてあげないと、かわいそうなままってこともあるじゃん。知らなけりゃいいってことでもないでしょ。
ー知らない方がいいこともあるよ。恋人同士のことに周りがあまり口出すべきじゃないと思う。
ーでも、結果がわたしたち両方にとっていいことかもよ。
ー誘導すべきじゃないよっ。
ー誘導じゃないよ。だからぁ、事実を話すだけだってばさ。
半透明の晴香は大きく右腕を振りおろし、その瞬間、晴香の夢は真っ暗闇と化した。
「お待たせ、桜子さん」
さっきより輪郭が濃くなった晴香は桜子のテーブルにゆっくりと腰かけた。
(続く)

