きみのもしもし #682
ーなにを見てるの? 空だよ。 淡い感じのブルーに、 ほんの少しだけ、気にならなければ気にならないほどの 本当に薄い白のフィルターをまとった空。 でも雲はひとつもなく、淡い感じのブルーの空。 つい見上げてしまう。 ーなにを見てるの? 鳥だよ。 そのブルーの空で気持ちよさそうに羽を広げて飛んでいる。 いち、に、さん、よん。四羽もいるね。 ーもしもし、わたしはね、あなたを見てるの。 もちろん、ぼくもきみを見ているよ。
きみのもしもし #681
ぼくが少年だった頃、 なんの不安もなく、近所の友だちと大声を出して裏山で遊んでいた。 大人になって、 多少の不安を抱えながら、 仲間と居心地の良いバーで顔を突き合わせ語り合っていた。 変わらなかったのは、 隣にいた彼らと肩を組み、顔を近づけ、間近で目を見て、 心通わせ、ふれあったこと。 デジタルの時代でとても便利になったけど、 横道に逸れることもなく、必要なときだけの繋がり。 楽しかったまったく関係のない会話、 そしてあの時のワクワク感もまだ湧いてこない。 ーもしもし。人間らしいって何だろうね。 きみまで簡単で難しい事を聞いてくる。
きみのもしもし #680
きみの隣にいれることを考える。 テーブルの隣できみは陽射しに包まれている。 今日の陽射しは暖かいね。 きみは何も答えず、 安心した顔で寝息を立てている。 おでこを少し触ってみよう。 きみはむにゃむにゃ。寝言かな。 ーもしもし、ほのぼのとした時間、好きだよ。 そんなことを言ったのかな。 きみの隣にいれることを考える。
きみのもしもし #679
お菓子を食べよっ。 お菓子っていいよね。 いろんなお菓子があるけれど、 どれもいいよね。 お菓子を食べよっ。 もしもし、珈琲はまかせるわ。 どれにする? わたしはこっち。 あなたはそっちね。 お菓子って、毎日を幸せにしてくれるよね。 ねぇ、そう思わない?
きみのもしもし #678
古いお皿をきみが見ている。 お店の主人はそのお皿を江戸時代のものだときみに説明したらしい。 そのお皿が今きみの手元にある。 ずっと使われ続けてきたのだろう、 そう思わせる風情がそのお皿から感じられる。 使われ続けて、でも割れずにきみの手に渡った。 どれだけ多くの家族の団欒を、そのお皿は見てきたのだろう。 それらの全てを記憶にとどめ、その幸せな時を今に伝える。 形あるものは壊れる。でも、壊れないものもある。 「もしもし。ね、いいお皿でしょ」 そうだね。ぼくらの時間も見ててもらおうか。 ぼくの言葉にきみはキョトンとしていた。