きみのもしもし #688
ーもしもし、なんだか、うれしそう。 ぼくは、ふふふと笑う。 うん、なんだかね。 ぼくはきみに写真を見せる。 このひと、以前カメラマンだったってさ。 そのあとはスタジオで写真雑誌の制作やってたって。 ーこのひと、新しい先生? そう、新しい先生。 ぼくは写真に写っているクラスメートの説明も交えて、 今日のレッスンの様子を話す。 するときみは、ふふふと笑う。 やっぱりうれしそうと、ふふふと笑う。
きみのもしもし #687
きみが呪文の様に繰り返している。 ー時は金なり。時は金なり。 なんだかなんとなくきみには似合わない。 語源はTime is moneyだよ、と教えてあげる。 日本由来の諺じゃないからね。 きみはキョトンしている。 どちらにしろ、お金以上に大切なのは時間だからさ。 ーもしもし。 きみはなんだかうれしそう。 ーわたしとの時間、あなたとの時間。 ー時間は限られていると思う。 ー大切に使おうね。 そうだね、ぼくもそう思う。
きみのもしもし #686
急に親父の声が聞きたくなり、車を走らせた。 フロントガラス越しに射し込む陽射しは柔らかく、 山下公園までの道は空いていた。 横浜港を正面に望むベンチもまだ混んでいなく、 散歩をする人もまばらだった。 ベンチに座り、親父が眠っている辺りの海面に目をやった。 ー何か言ってた? いや、何も。 ーもしもし。残念だった? いや、そんなことはないよ。 いつも黙って見守ってくれる人だったからさ。 近場の早朝ドライブに付き合わされたきみは、 公園の近くで買ってきてくれた珈琲をぼくに手渡した。
きみのもしもし #685
ーちちんぷいぷい、痛いの痛いの、飛んでけ。 きみが急に口ずさむ。 懐かしいおまじないを口ずさむ。 それって効くかな? ー何にでも効くはずよ。 きみが大きく胸を張る。 ー小さい頃、これを言われて治らなかったことなかったもん。 もしもし、だからね、ときみは空を見上げる。 ーちちんぷいぷい、みんな元気になぁれっ。 きみのおまじないが、世界中に届きますように。
きみのもしもし #684
ーだいじょうぶ。 きみが小さくガッツポーズをとる。 そう言えば、歌詞に大丈夫って言葉が入った歌は昔も今もたくさんある。 そして、みんなが耳にし、口ずさみ、勇気をもらったりする。 歌って必要なんだね。 ーもしもし、大丈夫だからね。 うん、わかった。 でも、歌っていいかな。 ーわたしのため? そう、きみに聞かせたい歌があるんだ。