風、空、きみ

talk to myself

きみのもしもし #531

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 ずっと以前、どのくらい以前だったのか、
 とにかくずっとずっと、今となってはそのくらいずっと前のこと。
 ぼくはきみの誕生日に自分で書いた掌編小説を贈った。
 懐かしいな。
 若かったんだろう。
 でも自信作だった。
 陽射しがきみを包む小説。
 ぼくの掌編小説の原点なんだろう。

 今日、久しぶりにきみと陽当たりの良いカフェに入った。
 話が弾んでいつしか、きみの顔が正面から陽射しに包まれていく。
「席を替わろうか」
「うん」
 今度はきみの顔の右半分だけが陽射しを受ける。
 それをきみは長い髪で遮った。
「もしもし、ね、今度は大丈夫」
「以前もこんなことあったっけ」
 きみは笑って答える。
「あの時の小説の中でね」
 きみもまだ覚えていたようだ。
 少しくすぐったい感じがした。

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Written by ken1

2018/02/18 at 19:41

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きみのもしもし #530

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ーもしもし?また出かけるの?
 きみのあきれた顔がスマホの向こうに見えるようだ。
ー風邪ひいて具合悪いんでしょう?
 そのはずなんだけど、薬も効いてるみたいだし、陽気も良いし。
ー昨日も同じこと言ってた。そして夜は咳き込んでお話できなかった。
 そうなんだけどさ。
ーでも今夜は咳き込んでもいいよ。
 大丈夫だよ、昨日ほど出歩かないから。
 今夜はちゃんと電話するよ。
ーいいの。今夜はそっとしといて。
 そしてきみは付け加える。
ーわたし、インフルになっちゃったの。
 えええ、じゃ苺もっていこうか。パックのお粥も要るよね。
 ぼくは少し動揺している。

Written by ken1

2018/02/11 at 22:14

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きみのもしもし #529

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ちょっとヤダ。と、きみが言う。
なんとなく微笑ましい。
なぜだろう。
きみの顔を覗き込んで、少し考える。
そうか、ヤダの前にちょっとがついてるからか。
ぼくは勝手に納得する。
いいよ、やんなくても。と、ぼくは答える。
きみはキョトンとする。
もしもし?やんなくていいの?
上目遣いに聞いてくる。
ヤなんでしょ。
ヤじゃない。ちょっとヤなだけ。
そしてきみはやり始める。
それ終わったら散歩に行こうよ。
ぼくの誘いにきみは大きく頷いた。

Written by ken1

2018/02/04 at 18:32

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きみのもしもし #528

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もっと話せばよかったと。
あのとき、もっともっと話せばよかったと。
うぅん、もっともっともっと、かな。
きみがそんなことを口にする。
大丈夫、ここにいるから。
そんな言葉は気休めだと、きみは首を横に振る。
そう言えば、最近は曇天ばかりだ。
寒空、曇天。空気が空高くまで澄みきっていた記憶がない。
そんなとき、きみは少しだけナーバスになる。
気休めかも知れないけどさ、
でも確かに今ぼくはここにいる。
ここにいてきみと話をしている。
だから、もっと話をしよう。
ねぇ、そうしよう。
きみは幼い子供がうなずくように、
今度は首を縦に振る。
もしもし、あのね。
うん、そうだね。
ぼくらはゆっくりと話し始めた。

Written by ken1

2018/01/28 at 18:33

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きみのもしもし #527

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 クローゼットの中から、きみが見つけて来たもの。
 それがまたきっかけのひとつとなった。
 きみが見つけて来たものは、結局そのままきみに預けたけれど。

「なつかしいものを見つけたね」
「使わないとかわいそうでしょ」
 きみはそう言って、それをぼくに差し出す。
「もしもし。最近、風景をブックマークしてる?」
 しているつもりのぼく。
「なつかしいキャッチコピーだね」
「そうじゃない。以前はもっと枚数多かった気がします」
 きみはそう言って、それをぐいと差し出す。
「これポケットに入れてた頃なんて、呆れるくらいに撮ってたじゃん」
 言われてみれば、そうかも知れない。
 いや、そのとおりだな。
「でも、その気にさせるいいキャッチコピーだったね」
 そうだね。その気は大事だな。確かに毎日ブックマークしてた。

 そして今ぼくは手持ちの小さなコンデジを毎日持ち歩く。
 あの日、手のひらサイズのデジカメを手にしたときと同様に。

Written by ken1

2018/01/21 at 20:46

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きみのもしもし #526

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きみは最近よく話をしてくれる。
そんなに話すことあったっけ、
と感心するほどたくさんの話をしてくれる。
急ぎとか、重要とか、その手の話ではなく、
ほとんどすべてが他愛もない話だ。
でも他愛もない話がこんなにもたくさんあったなんて、
最近のきみがぼくに気づかせてくれた。
いつかきっと懐かしく思えるんだろうな、
こんなにも「もしもし、聞いて聞いて」と言ってくるきみがいたことを。
そして、懐かしくて思い出し笑いをしちゃうんだろうな。
それとも、懐かしくて泣けてくるのかな。
以前にも増して話しかけてくるきみを見ていて、
そんなことを思った。

Written by ken1

2018/01/14 at 18:40

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きみのもしもし #525

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 休日の夜、銀座を歩く。
 表通りはインバウンドで溢れている。
ー苦手でしょっ。
 きみからのLINEが届く。
 どこにいても、どこにいるか、きみにはお見通しなのか。
 悪い気はしない。
 どちらかと言えば、なんとなくうれしい。
 ひとりぼっちも好きだけど、
 きみはやはり別格なんだろう。
ーきっとあなたはこの後、あそこに行くのね。
 先も読まれている。
 そのくらいぼくの行動は単純でワンパターンなんだろうね。
 じゃあ、違う行動に出てみるか。
 そんなこともしない。
 そして、ぼくは裏通りのバーのドアを開ける。
 すると、きみがカウンターに座っている。
 去年と同じだ。
「もしもし」
 きみがハイボールを片手に微笑んでいる。
 今年もきみのもしもしから始まった。
 良い年になりそうだ。

Written by ken1

2018/01/07 at 19:02

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