風、空、きみ

talk to myself

Archive for 10月 2005

そのひともいない街

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after tiny party, originally uploaded by hello.ken1.

そのひともそのひとの娘もいない街をひとり歩いてみた。
街路樹はかすかに色づき、大通りの歩道はにわかに秋の顔を見せ始めている。
週末の恋人たちにとって互いの気持ちをゆっくり確かめあうにはいい季節。
ぼくはいつもならどちらかの女性が触れているはずの右手右腕を持て余しているのに気がついた。
手持ちぶさただと、この歩道はぼくに意味のないはずかしさを感じさせるようだ。
しょうがない、一本裏通りに足を向けてみる。
そこにはオーナーたちの趣味のよさがうかがえるこじんまりとした雑貨屋、インテリアショップが軒を連ねていた。そしてその雰囲気がショップごとにぼくの足を止める。
しばらく時を忘れ、陽気のよさも手伝って、ぼんやりとショーウインドーを覗いていると、
ガラスに映るぼくの後ろを横切る人影が気になった。
ふと思い、振り返る、ぼく。
その誰かの後ろ姿はそのひとに似ていた。いやそのひとの娘に似ているのか。
秋のはじまりのうららかな午後、ぼくはどちらでもなくふたりのことが恋しくなった。

Written by ken1

2005/10/29 at 17:45

カテゴリー: her

そのひとと携帯とマニキュア

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finger.jpg

 機能が多すぎてよくわからないらしい。そのひとは携帯の機種変をしたと言う。
 ぼくはそれが似たようなボディカラーだったので、そのひとが携帯を新しくしたことに気づかなかった。
「おんなじオレンジ色を選んだのになぁ」
 理由を尋ねた。
「色が同じだからなんとなく使い勝手も同じに思えちゃったんだよね」
 小首をひねりながらいろいろボタンを押している。
 ぼくは新しい携帯の機能よりも、その指先の色っぽさに目を引かれた。
「綺麗な色ですね」
 爪のマニキュアを目で指した。ぼくとしては褒めているつもりだった。
「それより形を褒めてくれないかな」
 そのひとは携帯から視線を上げた。
「親から授かった世界にひとつしかない形なんだからさ、こっちをほめられたほうがうれしいんだよ」
 そう言うと、また携帯をいじりだした。
 確かにそのひとの爪の形はマニキュアなんて必要ないほど美しい。みずみずしい美しさとでも言おうか。
−だからマニキュアの色が映えるんだ。
 ぼくは悪戦苦闘しているそのひとの指先を見ながら、そう思った。

Written by ken1

2005/10/22 at 17:46

カテゴリー: her

そのひとと雨

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 そのひとは雨が好きだと言っていた。
「だって部屋でうだうだしてても許されるだろ」
 誰が許すのだろう。
「男とまったりとさ」
 なんとなく頷いた。
「外に出るなら、傘は大きいのがひとつがいいな」
 訳を尋ねてみる。
「肩寄せられるじゃん」そんな簡単なこともわからないのかと言う目をする。
「だからもてないんだよ」と言葉を続ける。
「それに」少しの空白。
「雨のあとは、街も空気も街路樹だってきれいになるんだよ」
 急に優しい口調になった。きっといい人のことを思い出しているのだろう。
 カフェから見える信号が雨で曇って見える。そのひとは目を細め、さっきからじっと信号を見つめている。
「そろそろ帰っていいよ」
 こちらに振り向くと唐突なことを口にした。
「その傘、もってっていいから」
 このひとは傘をぼくにわたして、自分はどうするのだろう。
「わたしはもう少し思い出に浸るから、あんたは彼女でもデートに誘いな」
 でも、優しく微笑んでいる。
 雨の日の信号、どんな思い出があるのだろう。
 ぼくはそのひとと別れ、そのひとがずっと見ていた信号に向かって歩いてみた。

Written by ken1

2005/10/17 at 17:51

カテゴリー: her

THE MALTESE FALCON

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マルタの鷹(1941版)。1931年の「マルタの鷹」(監督ロイ・デル・ルース、“SATAN MET A LADY”(監督ウィリアム・ディターレ)に次ぐ、ダシール・ハメット Dashiell Hammettのミステリー3度目の映画化で、ジョン・ヒューストン John Hustonの初監督作品。謎の美女メアリー・アスター Mary Astorもさることながら、不気味な風貌の小男のピーター・ローレ Peter Lorre、巨体の悪漢シドニー・グリーンストリート Sydney Greenstreet、そして、ハンフリー・ボガート Humphrey Bogart扮するスペードの鮮やかな存在感がたまりません。腕っぷし、頭脳明晰、クール、そして非情さ、ハードボイルド映画の代名詞、まさにそのとおり。今、観ても色あせていません。やっぱりお奨めします。

ちなみにこれ、今は¥500で世界名作映画で販売されています。

Written by ken1

2005/10/16 at 15:56

カテゴリー: cinema

そのひとのカフェで

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cafe at JIYUGAOKA, originally uploaded by hello.ken1.

 暗くなるのを待つために、すでに氷も溶け終わっているアイスコーヒーを下げてもらった。代わりにジントニックを頼んでみる。
 自宅では真夏でもビールを飲むことは無く、真冬でもキンキンに冷えたジンは欠かせない。そんなぼくの目の前のカウンターでジントニックが作られる。あれ?ジンはそんなに少ないの?トニック多すぎ。でもライムは半分そのまんま、それはいいかも。そしてライムの果肉舞うジントニックが差し出された。

「この時間にそのお店にいるんだったら、暗くなるまでもう少し待ってみたら」
 そのひとから携帯にメールが来た。
「暗くなると雰囲気変わるわよ、きっと」
 細切れのメール。
「そこは日没時が一番のお店だからさ」
 日没前でも日没後でもなく、日没時が一番だとそのひとはメールに書いてきた。

「一瞬の日没時なんて見逃しちゃうよ」
 苦笑いを浮かべて、外を眺めているとお皿一杯のミックスナッツが続いて差し出された。多すぎる。ぼくは困惑したまま首を振り、視線を通りに戻した。
 その瞬間、通りの統一性のない無造作な造形は見えにくくなり、つき始めた街灯は淡い色のまま通りにアクセントをつけ出した。
「あぁ、このことなんだ」
 夜の顔に変わる前のソフトな色合い、それが日没時だけ顔をのぞかせる。
 ぼくは心が和むのを覚え、ジントニックを片手にジャズが流れ出した店内にイスを移した。

Written by ken1

2005/10/13 at 17:52

カテゴリー: her

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