風、空、きみ

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Archive for 10月 17th, 2005

そのひとと雨

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 そのひとは雨が好きだと言っていた。
「だって部屋でうだうだしてても許されるだろ」
 誰が許すのだろう。
「男とまったりとさ」
 なんとなく頷いた。
「外に出るなら、傘は大きいのがひとつがいいな」
 訳を尋ねてみる。
「肩寄せられるじゃん」そんな簡単なこともわからないのかと言う目をする。
「だからもてないんだよ」と言葉を続ける。
「それに」少しの空白。
「雨のあとは、街も空気も街路樹だってきれいになるんだよ」
 急に優しい口調になった。きっといい人のことを思い出しているのだろう。
 カフェから見える信号が雨で曇って見える。そのひとは目を細め、さっきからじっと信号を見つめている。
「そろそろ帰っていいよ」
 こちらに振り向くと唐突なことを口にした。
「その傘、もってっていいから」
 このひとは傘をぼくにわたして、自分はどうするのだろう。
「わたしはもう少し思い出に浸るから、あんたは彼女でもデートに誘いな」
 でも、優しく微笑んでいる。
 雨の日の信号、どんな思い出があるのだろう。
 ぼくはそのひとと別れ、そのひとがずっと見ていた信号に向かって歩いてみた。

Written by ken1

2005/10/17 at 17:51

カテゴリー: her

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