風、空、きみ

talk to myself

Archive for 11月 2005

そのひとの娘のぼくの呼び方 part 2

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, originally uploaded by Paula Wirth.

「じゃあ何て呼べばいいのかな」
 ぼくのその問いにそのひとの娘は通りの日溜まりに視線を移し、目を細めた。
「何て呼ばれたいの」
 ぼくはその視線に割り込むかのように、もう一度聞いてみた。
「わたしを何て呼ぶかはあなたが決めていいのよ」
「えっ」
「わたしをどう呼ぶかはそれを口にするあなたに決めてほしいな」
 胸が少しキュンとした。忘れていた新鮮な感覚。でも不思議な感じ。名字でも名前でも、そのままでもいじっても、きっと以前の誰かがそう呼んでいた呼び名に行き着きそうで、ぼくの頭の中でそのひとの娘の名前が飛び回った。漢字、ひらがな、ローマ字、カタカナ、どれもなんとなくしっくりこない。オリジナルっぽいのも出てこない。そのひとの娘をイメージできなくなってくる。
「ねぇ、難しく考えちゃってるでしょ」
 通りの日溜まりを見ていたはずのそのひとの娘の視線が、いつの間にかぼくに向いていた。
「うん」
 ぼくは正直に頷いた。
「そうだね、やっばりきみのこと、きみでいいかな」
 そのひとの娘は陽射しに包まれたまま目を細め、静かに微笑んでいた。

Written by ken1

2005/11/27 at 17:39

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そのひとの娘のぼくの呼び方

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Pike 3, originally uploaded by tomusan.

「きみはね、わたしのこと名字でも名前でもなく、あなたって呼んでいたんだよ、付き合い出した頃は」
「まぁ今でも名前で呼んでくれないけどさ」
「真面目な顔してさ、キスした後も、あなたって。可笑しくもあり、じれったくもあり、だったなぁ」
「ほんと、いつ頃からかなぁ、きみって呼んでくれたのは。きみもきっと覚えてないよね」
「わたしも気づいたときには、きみにきみって呼ばれるのに違和感なくなってたし」
「知り合ってから、ずっと、きみにきみって呼んでもらいたかったんだけどね」
「せっかくきみって呼んでくれるようになったのに、記念すべきその日がわからないなんて、わたしもわたしだわ」
「そう、きみにきみって呼ばれるのってちょっとセクシーでぞくぞくって感じなの。背中のあたりで感じるの。わかる?」
 そのひとの娘は暖かそうな陽射しを見ながら、ぼくにそんな話をし始めた。たしかにそのひとの娘を名前で呼んだ記憶がない、改めてそのとき、ぼくはそう思った。

Written by ken1

2005/11/20 at 17:40

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そのひととそのひとの娘のポラロイドカメラ

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green w/morning sunshine, originally uploaded by hello.ken1.

「ポラロイドカメラって使ったことあるかい」
 そのひとは会話の腰を折るように違う話題を口にした。
「撮ったことないわ」
 そのひとの娘はいつものそのひとの割り込み方にため息半分で生返事をする。
「あのひとの忘れ物なんだけどさ」
「あのひとって」
「あのひとはあのひと、あなたのパパに決まってるじゃない、まぁイヤだわ、この子ったら」
ーママが照れている、あやしい。
 そのひとの娘はそのとき、そう思ったと言う。
「最近ポラロイドって流行ってるって雑誌に書いてあったからさ」
 ソファーの後ろから、目の前に唐突に出されたその四角い箱。前もって準備していた手際のよさだった。
 でも、そのひとの娘が手に取るよりも早く、そのひとは四角い箱を自分の手元に引き戻した。
「こうやるとファインダーが出てくるのよ。そしてこうやってここから覗くの」
「へーコンパクトにできてるんだね」
ーあれっ返事がない。
「どうしたの。どっか壊れてるの」
 そのひとはファインダーに目をつけたまま、軽く首を横に振った。
「そうじゃないわ」
 一瞬、時間が止まった。そう感じた。そのひとも動かない、そのひとの娘もそんなそのひとを見つめている。
「あなたのパパもこうやってあなたやわたしのことを見ていたんだなあってさ」
 そのひとはさみしそうに、でも懐かしさをたたえた表情でにっこりと微笑んだ。
 そして、そのひとの娘にポラロイドカメラを手渡した。
「ねぇ覗いてごらんよ。なんだか風景がやさしく見える気がするよ」
 そのひとの娘はカメラを手にとってファインダーに目をつけた。

Written by ken1

2005/11/12 at 17:41

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そのひとの娘と忘れていたバロメータ

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blue, originally uploaded by elizz.

「唇をブラシで塗るところかな」
「えっ」
「だから、スティックタイプで口紅を塗るんじゃなくてね」
 これでもそのひとの質問と言う名のリクエストに合わせて答えたつもりだった。
「ペンシルは使わなくてもいいから」
「へー、男の子なのに妙なところを見ているんだね」
 そのひとが聞いてきたのは、こうだった。
「女の子のどんな行為が、きみをそそるのかな」

 当時のぼくはそのひとの興味津々の問いかけに、悩むことなく、さらりとそう答えていた。

 その数日後、カフェの日溜まりになっているテラス席でふたり、珈琲を味わっていると、そのひとの娘がハンドバックから数個の化粧品を取り出した。
「こういう仕草、そそられるんでしょう」
 意味深な言い回しの後、ブラシを使って口紅を整えるそのひとの娘。
「ママから聞いたの。男の子は妙なところを見ているんだって」

 今だともうそんな仕草も気にしなくなったぼくがここにいる。
 そう言えば、あの日、そのひとの娘に言った言葉。
「キスしたいって思うかが、その子を好きかどうかのバロメータなんだよね」
 写真を整理していたら、そのひとの娘の唇の写真が出てきたので思い出した記憶。
ーそんな大事なことも忘れていたよ。
 ぼくはそのひとの娘の写真に向かってひとりつぶやいた。

Written by ken1

2005/11/01 at 17:43

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そのひとの娘と唇を重ねる

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「きっとそれほど好きじゃないと思う」
 唐突だった。
「ママのほうがきっとあなたのことを好きなんじゃないかなぁ」
「でもぼくはきみのことが好きだよ」
 戸惑ってしまう。
「恋い焦がれるほどじゃない、でしょ」
「じゃあ、このキスはなに」
 そのひとの娘の唇にぼくの唇を重ねてみる。
 唇を離し、少し見つめあってまたすぐに唇を重ねる。今度はもっと深く。
「でもちょっと違う」
 なにと、誰と比べて、なにが、どう、違うのだろう。
「そんな気持ちになったことない?」
「どんな?」
「好きなんだろうけど、もしかしたらそれほどでもないなぁって」
 そのひととはそんな関係でもないし、そのひとの娘もそのことはわかっているはず。
 でも、ぼくの脳裏にそのひとがちょっとだけ浮かぶ。
「どうしたいのかな」
 また軽く唇を重ねる。
「どうしたいってわけでもないの」
 今度はそのひとの娘から唇を重ねてくる。
「なんとなくそれほど好きじゃないと、ふと思っただけだから」
 そのひとの娘は真っ白のシーツを鼻の上まで引き上げると、いたずらっぽくぼくをみつめた。

Written by ken1

2005/11/01 at 00:44

カテゴリー: her

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