Archive for 2月 2007
日本沈没
日本沈没と日本以外全部沈没を続けて観ました。観終った後に、やっぱどうせ観るんなら1973年の日本沈没だったかな、と思ってしまいました。草彅くんのはCGが当然すごいんですが、何に重きを置いているのかよくわからない。日本をすくうことなのか、恋愛なのか、おじさんたちの庶民の感情なのか。草彅くんの実家はなぜか無傷だし、変。日本以外全部沈没では1973年での主役・藤岡弘が、防衛庁長官に扮しています、そのくらいかな。と言うことでリンクは1973年版を張っときます。
Nikon S3-M
会社を早退して:P、松屋恒例の「世界の中古カメラ市」に行ってきました。目玉はこれ。Nikonのハーフサイズ(縦24ミリ×横18ミリ)カメラで、世界に30数点しかないといわれる「ニコン S3-M」(シルバー)限定1台を966万円で販売していました。存在感ありました。うーん、でも誰が使うんだろう、カメラは使ってなんぼのはずだし。でも、魅入っちゃいました。ちなみに今週末までにはきっと手にするロシアのKharkov製造のFED5Bはなく、違うレンズが取り付けられたFED2が1台だけありました。FEDはロシアのライカなんだけどなぁ。
promise #29
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自分のベッドに横たわり、おねえさんから手渡された写真を見ていた。そこには満面の笑顔の麗奈が写っている。おれやあーくんの間で、麗奈のことが話題になることもなかった頃だろうか、それでもおねえさんは小学校の頃だよと言っていた。
「あの頃の麗奈なんだね」
「うん、そうだよ、元気なレイだね」
「レイって呼んでたの」
「お互いにレイ、由香ねえさんって感じかな」
「よく遊びに来てたの」
「同じ町内に住んでるちょっと年下の従姉妹なんだけど、遊びに来るのはすごくたまぁにかな」
「でも、仲よかったんだ」
屈託のない麗奈の笑顔からそのことが伝わってくる。
おねえさんは数枚の写真の中から、好きなのをあげるよ、と言ってくれた。手渡されたアルバムをゆっくりとめくると、笑顔の麗奈、得意顔の麗奈、唇をとがらせた麗奈、いろんな表情の麗奈を見ることができた。
「おれ、実は麗奈のこと、よく知らないんだよね」
「祐二くんがレイのことよく知らないだろうってことは分かってたよ」
「うん」
「でもね、レイは祐二くんのことが好きだったの」
「えっ」
「はずかしいから言っちゃだめって」
麗奈はたまにおねえさんの家に遊びに来ると、そわそわとおれの家を覗いていたと言う。学校でもたまに見かけ、ここに遊びに来ると庭越しにおれを目にすることができる。祐二くんも呼ぼうか、おねえさんが麗奈に尋ねると、怒ったような表情でリビングの奥のピアノに向ったそうだ。
「これがいいな」
「そう、うん、それが一番レイらしいかも。大切にしてね」
そしておねえさんはその写真にメモを添えて、おれに渡してくれた。
「もう大丈夫だから、祐二くんにも教えてあげなきゃって思ってね。電話してあげて」
「人と話ができなくなってたんだよね」
「うぅん、ほんとは違うの。夜がとっても怖くなっていたの。だから疲れちゃったのよね」
「もう怖くないんだ」
「大丈夫よ。でも、そのことにはあまりふれないでね」
ベッドに仰向けのまま、麗奈の笑顔を手に持って、天井に腕を伸ばす。下校のときに友だちと笑い合っていた満面の笑顔が今、おれを見ている。
ー電話しても大丈夫かな。
ー自宅の番号じゃないから、麗奈を呼びだすようにおねえさんは言ってたな。
ー何て話を切り出せばいいんだろう。
笑顔の麗奈に問いかけながら、おれは一歩も進めないでいた。
「祐一くん、パパが晩酌つきあわないかだってよ、起きてるんなら降りてこない?」
母親の声が聞こえた。その声は、おれをある種の金縛りから解放してくれた。
「聞こえてる?」
おれは引き出しに麗奈の写真をしまうと、
ーちょっと、ごめんな、ハコ。
卓上に立ててある葉子の写真を伏せ、階下の母親に返事をした。
「今、降りてくよ」
(続く)
promise #28
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おねえさんが出してくれた白ワインのせいで、おれは少し赤ら顔になっていた。
「ごちそうさまでした」
「お腹いっぱいになった?」
「うん」
「幸せでしょ」
わたしと一緒のお鍋だから幸せでしょ、と言っているのか、それとも、
入っていた豆腐が美味しかったから、そう聞いてきたのか、
おねえさんの口元からは読み取れなかった。
「お取り寄せしてたんだよ、あのお豆腐、京都から。美味しいものをお腹いっぱい口にするって幸せよねぇ。ねっそう思わない?」
おれが白ワインを1杯飲む間に、おねえさんは2杯目のグラスを空けていた。鍋の熱さと白ワインのアルコールに火照っているのか、おねえさんはほんの少しだけキーの高い声で、そして心なし早いしゃべり口でおれに話しかけてくる。
「洗い物は流しに運ぼ。運びおわったらソファーに座って待ってて」
五分くらいだろうか。おねえさんがリビングから出て行って、おれは白ワインが3分の1だけ残っているグラスを持ってソファーでおねえさんを待っていた。
リビングのもうひとつ奥の部屋からはグランドピアノが覗いていた。あのピアノが週末の朝、おれら家族を幸せにしてくれているんだ。おねえさんの奏でる調べが心の奥の方でおれに優しさを思い出させてくれた。そう言えば、お腹の痛い時もおねえさんの調べで安心して眠りにつけたこともあった。小学生の頃か。
ソファから立ち上がり、知らない間にピアノの前に立っていた。
ーこんばんは。
ーはじめまして、いつもありがとう。
ピアノと会話ができた気がした。
「あとで弾いてあげるから、こっちにいらっしゃい」
おねえさんが一冊の分厚い本を持って、リビングに戻ってきた。
「お休みの朝、うるさくなかった、わたしのピアノ」
笑いながら首を横に振るおれに、おねえさんは自分の横に座るように指を差し、ソファの前のテーブルに分厚い本置いた。それは昔ながらの懐かしい趣のあるアルバムだった。えんじ色の重厚な表紙に金色のばらの刺繍がしてあった。そして、おねえさんがその重そうな表紙を開くと、色調からして思い出を語っているような写真が四隅を三角形の黒い小さな紙で固定されていた。
「これ、おねえさん?」
「そんな写真はいいのよ、見なくても」
ビキニの水着をつけてゴムのプールで水浴びをしているおかっぱ頭の幼い頃のおねえさんがいた。場所はこの家の庭先のようだ。
おねえさんは自分のグラスに白ワインを注ぎ足しながら、ゆっくりとページをめくっていく。おれに何か説明をしてくれるわけでもなく、これ以上、おれにワインを勧めるわけでもなく、1ページめくるごとに横に座っているおれに微笑みかけながら、次のページへと進んで行く。
ーこのページかな。
おねえさんの声がおれの耳元でささやくように聞こえた気がした。
「えっ」
ー何か気づかない?
おねえさんはページを進める手を止め、グラスを片手に持って、ソファーに背をもたれた。
おねえさんがいたずらっぽく微笑んでいる。頬がほんのりと赤くなりなり始めたおねえさんが、そのページの写真をよく見るようにおれに言っている。
そこには、そう、そのページには、麗奈とおねえさんが手をつないで立っていた。
(続く)