風、空、きみ

talk to myself

Archive for 8月 18th, 2007

promise #54

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ruby avenue fire, originally uploaded by foreversouls.

 これから宿泊場所を探そうとしていたおれに、麗奈の両親は自分たちの家に泊まるよう勧めてくれた。
「わたしから小早川くんのご両親には電話を入れておくから」
 おれは麗奈の父親の厚意に甘えることにした。

 麗奈の家に着くと、母親はおれに「暑かったでしょう」と冷蔵庫から冷えた飲み物を出そうとした。
「ママ、ビールを頼む」
 母親はさほど驚かない素振りでおれの前にもビールグラスを置いた。
「祐二くんも、よね」
「あとは男同士で軽く飲んで寝るから。今日は暑くてママも疲れただろう、先に休んでてくれ」
 母親がおれの様子をうかがう素振りを見せる。
「ええ、まだ大丈夫ですからお先にどうぞ。ぼくは少しビールをいただいてから休ませていただきます」

 母親が奥に下がり、おれと父親が一二杯ほどビールを注ぎ合った後、父親はおもむろに立ち上がった。
「ちょっと来てくれないか」
 そう言って案内されたのは、麗奈の部屋だった。
「きちんと伝えていなかったね」
 その部屋に入り、差し出された椅子に、おれは腰かけた。
「由香ちゃんも混乱してるんだろう。彼女にもずっと連絡を取っていなかったから」

 麗奈の部屋は、おれと同じ歳の女子高生の部屋と言うよりも、幼い少女の部屋と言ったほうが違和感のない小物が沢山あった。ずっとこの部屋には戻っていないんだろうな、おれにそう思わせるには十分だった。
 父親は壁に貼り付けられたクレヨン画や、家族みんなで写っている写真をひととおり見渡すと、おれに視線を戻した。
「麗奈はもういないんだよ」
 突然、父親が絞り出すような口調でおれに話し始めた。
「もういないんだ」

 誰かがいつかおれやあーくんにそう言うだろうと予想はしていたが、麗奈の父親の口から聞かされるとは思わなかった。
 葉子の体を通しておれやあーくんと接触してきた麗奈、あの現象を信じることは麗奈に起こった何かを肯定することになる、それだけは肯定しちゃいけない、それをあーくんやおれは無意識に感じていた。あーくんはおれの知らないところでその何かを肯定したんだろうか、その結果が今日に結びついているんだろうか。

「実はもうずいぶん経つんだ」
 父親は麗奈のベッドに腰を下ろした。
「あの子がいつもの発作で、ある日窓ガラスを割ってね。はずみで母親の手首を傷つけてね。いや、大した怪我じゃないんだ」
 部屋の温度が下がった気がした。麗奈がそばにいる、一緒に話を聞いている、おれは車の中のクーラーの感覚、病室の涼しさ、そして今、それに似た温度感を肌に感じはじめた。

「母親は偶然だから気にしなくてもいいと、その日泣いてばかりいる麗奈を幾度となく、なぐさめたんだが」
 温度がまた少し下がった気がした。いや、確実に下がっている。
「その日の夜に診療所が不審火で全焼してね。麗奈だけ火事場から発見されなかったんだよ」
「じゃあ、行方不明なだけかも知れないじゃないですか」
 おれはわかりきった期待のない言葉を、父親に向けた。
「そう思いたかったよ。だけど二日後に診療所の先の断崖の下、海に面しているんだがね、そこにちょうど体半分、下半身だけ海に浸かった状態の麗奈が発見されたんだ。もう目覚めることはなくてね」
 父親の右肩のまわりの空気が、おれには溶けているように見えた。その空気を通して見える壁のクレヨン画がバレットで混ざった絵の具のようにゆがんで見えた。

「不審火の原因は結局分からずじまいなんだが、当時診療所にいた人は患者さんも看護婦さんも当直の医師も、不思議と誰一人として助かっていないんだ。全員焼け死んだのに、麗奈だけきれいな顔のまま」
 父親は少し言葉に詰まった。
 そのとき、父親の右肩のまわりだけでなく、部屋全体の空気が一瞬ゆがんだ気がした。
ーわたしじゃないのよ。
 麗奈の意識がおれの心に直接訴えてきた。
ー大丈夫、わかっているよ。
「麗奈はその不審火には絡んでないですよ、きっと」
「わたしもそう信じているよ」
 父親は力なく微笑んで見せた。
「ただ大勢の方がなくなった、そのせいだろう、みんな気味悪がってね、診療所跡はまだ放置されたままになっているんだよ」

 父親のまわりの空間がそっと揺れている。麗奈が父親を優しく包んでいる。
 そのとき、おれの視界に母親の姿が入ってきた。
「パパ、何を言っているんですか」
 母親は涙でいっぱいの真っ赤な目をして、いつの間にか、麗奈の部屋の入口に立っていた。
「麗奈はいますよ。生きているんです。だってわたし今日も話しましたもの」
 
(続く)

Written by ken1

2007/08/18 at 21:55

カテゴリー: promise

季節外れの小説

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Macの整理をしていたら、かなり以前に書いた小説が出てきた。連載しようとしていた記憶がある。なんで連載止めたんだろう。思い出せない。雑貨屋が第1話、きみのが第2話。季節外れだけど、記録として。

Written by ken1

2007/08/18 at 09:16

カテゴリー: info

きみの写真を撮ろうとするわけ

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 涼子は一度だけ祐二に尋ねたことがあった。
「ねぇ写真撮るの、楽しい?」
「楽しいよ。風景を切り取るのも楽しいし、涼子の笑顔を撮るのも好きだな」
「いっぱい撮ってるよね、わたしのこと」
「うん、だって自然な笑顔でこっち向いてくれるんだよ、涼子は」

−でも
と、涼子は思った。
−でもね、きみはいっつも尋ねてくるんだよ。「ねぇ撮っていい?」ってさ。

「涼子の笑顔をいつでも見れるようにさ、手帳に忍ばせておくんだよ」
 裕二の口から意外な言葉を聞いた気がした。このひとはわたしの写真を持ち歩いてくれている。
「子供の写真を持ち歩くパパみたいだね。でもさ、だったら一枚あればいいじゃん」
「きみの笑顔って一種類だけじゃないだろ。いつも一緒じゃないんだからさいろんな涼子を持っときたいの」
「いつでも呼んだら会いに行ってあげるよ」
「そうもいかないだろう」
「わたしはそんな事ないよ。裕二はさ、わたしと仕事どっちて聞いたらきっとわたしより仕事を選ぶでしょ」
「聞くの?」
「聞かないよ、わかっていても知りたくないもん。でもね、それでいいのよ。そうじゃなくっちゃ。どんなときでもわたしは大丈夫だからさ」
「うそだね」
−そう、うそだよ。そんなのうそに決まってんじゃん。
 涼子は顔を10センチ裕二に近づけた。
「じゃあ、うそだと感じたときだけは何をおいても会いに来てよ」
「わかんないな」
 何食わぬ表情でテーブルの上のカメラを手にする裕二。
「えっ」
「いや、うそがどうかがわかんないってこと」
「わかるようになってよ、そのくらい。それだけでいいからさ」

−あのクリスマス一週間前、ここでそんな会話したなぁ。
 二杯目のコーヒーを半分ほど飲むと、視線がテーブルの上の携帯電話に落ちた。折りたたんだその携帯の小窓にはメールの着信を知らせる絵文字が静かに点滅していた。
−あっメールだ。
 そう思い携帯電話を手にとろうとした涼子の視界に息を切らした裕二の姿が入ってきた。久しぶりに会うふたり、涼子は裕二の顔を見ながら昨年のクリスマスのやりとりを思い出していた。

「今夜、行けなくなった」
「仕事なんだね」
−どうしても来れないの。
「予約どうしよう」
−遅くなっても来てほしいな。はじめてのクリスマスだよ。
「大丈夫だよ。キャンセルも」
「どうしてる」
「そうだね、観たかった映画が今日までなんだ。それに行くよ」
−クリスマスまでの映画なんてないよ。会いたいな。
「じゃあ、わるいな」
 それからずっと続いてる裕二の多忙な仕事。
 なんとなく会いたくなくなったのは涼子の方。

「やっぱりここにいたんだね」
−ねぇわたしたちはどこにいるのかな。
「写真、クリスマスの前にここで撮った写真、できたぜ」
−ずっと会ってなかったね。
 裕二はお店のサービスのコーヒーを受け取ると、涼子の隣にゆっくり座った。座るとひじをつき、涼子の顔を覗き込んできた。満面の笑顔、裕二の笑顔。
−不思議だなぁ、この笑顔。
 裕二の笑顔が涼子のわだかまりを溶かしていく、涼子自身がそれを一番感じていた。

Written by ken1

2007/08/18 at 09:14

カテゴリー: another story

雑貨屋のテーブル

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 雑貨屋の奥には休憩スペースがあった。輸入物のステーショナリーが置いてある棚に沿って12歩進むと、右手の奥に入口からでは目につかないその場所にたどり着く。12歩、それは涼子の歩数であり、決して祐二の歩数ではなかった。

 会社のデスク用に使い勝手のよさそうな小物を探していた涼子は、無意識のうちにその歩数を刻んでいた。休息スペースのテーブルにはガラス越しの冬の陽射し、その暖かそうな陽射しはテーブルに置かれている小さなグリーンを優しく包んでいた。
 涼子にはそのグリーンが光を存分に吸収しようと目一杯6枚の葉を広げているように見える。

 12歩を数えてみたのは1年前の涼子。祐二は涼子にせがまれて歩数を確認してみたが、笑いながら、そんなにかからないよ、と涼子とならんでそのテーブルについた。12歩の会話でその日は終始し、互いに笑いあえる笑顔があった。そのときもテープルにはグリーンが置いてあった気もする、今の涼子はそれさえ鮮明に思い出すことができない。

 数カ月前、このテーブルから店内の雑貨を背景に涼子は祐二に写真を撮ってもらった。
「ねぇ、写真撮ってもいいかな」と祐二。
「撮りたいんでしょ」
「まぁね」
 祐二が持ち歩くカメラ、祐二が向けるレンズ、そして控えめなシャッター音。涼子はどれも好きだった。それにもまして好きだったのは、そのときの祐二のはにかんだ顔、どれだけ撮らせてあげてもはにかんで聞いてくる。
「ねぇ撮っていい」

 サービスで一杯だけ飲めるこの雑貨屋のコーヒー。それほど客が入っているわけでもなく、このテーブルに腰掛けている客の姿も見たことがない。涼子がこの店に来るときは必ず空いているテーブル、ほっと一息つける、通りの雑音も届かない、時間が独立している。涼子の好きな場所だった。独特の苦味のあるコーヒーも好きだった、サービスは一杯だけ、お替わりはなし、料金無料、セルフサービス、でも美味しかった。

 この場所のことに思いを巡らせると必ず祐二の笑顔が重なる。祐二ははじめて入ったこの雑貨屋でフォトフレームを買ってくれた。
「どうするの」
「どうにでも」
「じゃあ祐二が撮った写真を飾るね」
「涼子の顔ばかりだよ、おすまし顔、真剣な顔」
「わたしは街の風景がいいな」
 微笑ながらうなずく祐二の顔が陽射しの中に浮かんだ。
 そんな祐二の顔を思い出していると、涼子の携帯電話にメール着信を知らせるランプが光った。
「写真があがってきた。見せたいんだけど、今、どこにいるのかな」
 祐二からの短いメール。タイトルは「写真」。涼子は冷めかけたコーヒーに口をつけると祐二からのメールを削除した。

「コーヒーのお替わりはどうですか」
「ええ、でも、いいんですか」
「気持ちが落ち着くまでいいですよ」
 女性の店主が静かにコーヒーを注いでくれた。はじめてのことだった。
「大丈夫ですよ、笑顔を忘れなければきっとうまくいきますから」
 涼子が店主の言葉に驚いて顔を上げると、彼女はゆっくりうなずいてレジの方へ戻って行った。
 暖かいコーヒー、不思議な言葉、柔らかい陽射し。涼子はテーブルのグリーンを少し引き寄せると、自分に言い聞かせるように話しかけた。
「このコーヒー飲み終えるまでにもう一回、祐二からメールが来たら、、、」
 そのとき光った携帯電話の着信ランプは陽射しに包まれ、涼子はまだそれに気づかず2杯目のコーヒーに口をつけた。

Written by ken1

2007/08/18 at 09:13

カテゴリー: another story

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