風、空、きみ

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Archive for 8月 26th, 2007

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Written by ken1

2007/08/26 at 19:14

カテゴリー: life, photo

promise #55

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Gaze, originally uploaded by Magander.

 翌日、おれはひとりであーくんのいる病院へ向った。途中、母親へは電話を入れ、葉子にはメールを打った。
「麗奈ちゃんのお母様からも、丁度さっきお電話をいただいたのよ」
 母親はおれが無事こっちに着いたことを知って、安心しているようだった。
ーあーくんも心配だけど、麗奈ちゃんには会えたの?
 葉子には昨夜麗奈の父親から打ち明けられたことをどう伝えようか、決めかねていた。
ー会えたよ。
 おれは、嘘ではないと、自分に言い聞かせて、麗奈からのメールに一言だけ返信をした。
 数分後、メールの着信をおれの携帯が知らせる。でも、そのメールの差出人が葉子であること、そして「麗奈ちゃんは元気だった?」と聞いてくる内容だろうことは容易に想像でき、そのメールはあーくんと会ってから開くことにした。あーくんの意識が戻れば、麗奈のことを何か話してくれるかも知れないと期待したから。

 おれは、小学校のときにあーくんに声をかけられたのを、病室で思い出していた。
「ゆうじって言うんだね」
「そう、こばやかわ、だよ」
「えっ、ゆうじって言うんだよね」
「あれ、今、こばやかわって呼ばなかった」
 初めて言葉を交わした時は、あーくんが心の中で「こばやかわ」と思ったことが聞こえていたはずだ。あれは不思議な感じだった。友だちになった瞬間はあのときだと確信している。それから一度もあーくんの心の声を聞くことはなかった。心に直接聞こえてくる他の人たちとどう違うんだろう。未だにはっきりとした理由はわからない。もともとそんな声が聞こえている事自体、あーくんしか知らないし、そのことをまわりに知ってもらおうとも思わなかった。だから、おれとあーくんが理由を分からない限り、他の人たちとどう違うかだなんて、知りようもなかった。

 でも、こんなときこそこの不思議な感覚がおれとあーくんの間で成り立って欲しいと思った。
「そろそろ起きようぜ、あーくん」
 どうすればあーくんが目を覚ましてくれるのか分からないおれは、とにかくあーくんの手を握りしめ、話しかけてみた。
「何が起こったのか、何を見たのか、教えてくれないと、前に進めないよ、あーくん」
 肉体的に動けなくても、意識だけでもこの肉体の中で目覚めているのなら、それこそおれの心に直接語りかけてくればいい。けど聞こえてこないのは、おれの心に問題があるのか、あーくんの方の問題なのか、今のおれには分からない。
ーあーくんの意識は一生懸命話しかけているのに、おれの心がブロックしていたら、どうしよう。
「あーくん、頼みがあるんだ。もしおれの声が聞こえていて、おれに何か伝えようとしているんだったら、この手をどうにかして握り返してくれないか。ほんの少しでいいんだ、あーくん」

 蝉の鳴き声が聞こえる。
 廊下を歩く看護婦さんだろう、そのゴム底のサンダルの音もたまに聞こえる。
 本来の面会時間までには時間がある。今、人の気配はしない。
 この病室はまだあーくんだけ。
 窓は開いていて、夏の午前中の少しひんやりとした空気が流れてくる。
 カーテンが微妙に揺れる。
 蝉の声が止んだ。
 また部屋の温度が少し下がった気がした。

ーあーくんは希望して、わたしと一緒にいようとしているのよ。
 おれの背後に麗奈の気配がした。
ーそれに、あーくんの声だけはあなたの心には届かないから。
ーえっ。
 振り返ろうとしたおれの体はおれの命令を聞かなかった。
ー教えてあげるね。

(続く)

Written by ken1

2007/08/26 at 18:55

カテゴリー: promise

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