Archive for 6月 2010
cloud, cloud, cloud
たまにはデジカメの写真でも。モノクロの写真を略称dAと呼んでいるとある海外のサイトにアップするとあるアメリカの報道カメラマンから「もっとホワイトバランスをどうこうしなさい」と数回に1回の割合くらいでコメントをいただく。うれしいけれど、あまりいじりたくないし、ぼくの技量的にはどうしようもないし。せっかく何回もそんなコメントをいただくのに、実践していないから申し訳ない。
この写真も「you have the makings of a great image here. The only problem with it as is, is that its too flat in tone. Maybe pump up the contrast, Open up the white levels. 」とのことでした。
Midnight Zoo #45
浅い眠りから目覚めた晴香は、洗面台の鏡に映った自分を凝視していた。
「このままじゃいけない」
夢から覚めて、いないはずのもうひとりの自分に話しかけた。
鏡をどんなに強く見つめても、端の方まで目を凝らしても、もうひとりの自分の影は見つからない。
そんなことは十分わかっているはずだった。
「この身体を昼と夜とで平等に使う。それはそれでもういいんだと納得はしたんだけどね」
わかってはいたが、見えない自分にちゃんと話を伝えてからこれからの行動を起こそうと思っていた。
晴香は安心したように、鏡越しにもうひとりの自分を探すのを止めて、鏡に映っている自分、それも自分の薄茶色い両方の瞳に向って話し始めた。
「本当はね、あなたとゆっくりと話したかったな」
そう口にしたとき、晴香はなんとなく自分の肩の力が取れていくのを感じた。
「喧嘩しても、言い合っても、所詮わたしたちはひとりなのにね」
小さい丸っこい椅子に腰かけ、肘を洗面台の縁に乗せ、鏡の中の瞳に少しだけ近づいてみた。
「、、、平等なんかじゃない。不平等だね」
今更ながらに何を気づいているのだろう、晴香の口から小さなため息が漏れた。
「ごめんね。そうだよね」
もうひとりも自分であることには変わりはない。そのもうひとりは確かに存在している。でも、このわたしの姿としてイメージを相手に与えることができているとは言え、体温を持った肉体としてはあのベッドに横になっている。たぶん夜、もうひとりの自分が転んだとしても、何かに引っかかって怪我をしたとしても、眠っているこの身体が傷つくことはないだろう。
「そんなのは平等じゃないよね」
晴香は少し呼吸が苦しいような、胸が締めつけられる思いがした。
鏡のどこを見渡しても、もうひとりの自分はいない。
ーえっ。
クラシックカメラのシャッターを切ったように、一瞬何かが視界を遮った。
瞬きをしたら、ほんの今まで見えていた世界とはまったく変わってしまった気がした。
不安が晴香を大きく飲み込もうとしているのを感じた。
「そうよ」
ーうそ。
「うそじゃないよ」
晴香が自分の両方の眼で見ている目の前の鏡に映っている自分が、うっすらと微笑んでいる。
「あなたが見ているのは、わたしよ」
晴香は信じ難い恐怖にかられ、鏡に映っているものを隅から隅まで確認しようとした。
「さっきから何も変わってはいないわよ。ただ」
少しずつ気づき始めた晴香に、もうひとりの晴香が話を続けた。
「今のあなたはこの薄茶色の瞳しか動かせないの。でもわたしはこの瞳も含めてぜーんぶ動かせるけどね。瞳を動かしてわたしや鏡や周りのものを見て感じることことはできるけど、そこまでね。この指さえ動かすことはできないわ」
満足気なもうひとりの晴香が鏡に映って、にっこりと微笑んだ。
「ほら、微笑んだのは、あなたじゃないわ。このわたし、もうひとりのあなただもの」
(続く)
きみのもしもし #143
「またおみくじ、引くんでしょ」
きみがぼくのとなりで笑っている。
「毎回どっかでおみくじ引いて、どれを信じるのかなぁ」
きみが少しだけ不思議そうな顔をする。
ぼくは「だからさ」と言いながら、巫女さんに100円玉を2個渡す。
きみは「ははん」とものしり顔でぼくに近づく。
「巫女さんとの会話が目的でしょ」
ぼくは「だからね」と少しだけ苦笑いをしながら、おみくじを開く。おや、末吉。
振返るときみも巫女さんに100円玉を渡している。
そして、
「もしもーしっ、もしもーしっ」
きみはしたり顔で、開いたおみくじをぼくに見せた。
「大吉です。おすそ分けしたげます」
そんなきみの笑顔を見ていると、
確かにぼくの末吉も大吉に見えてくるから不思議なものだ。