風、空、きみ

talk to myself

Midnight Zoo #44

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 近くの公園のベンチで、桜子とひなのは珈琲片手にただただ目の前をジョギングしていく人々を見ていた。誰か知り合いを探すとか、何か目新しいものを見つけるためとか、そんな何かの目的をもって見ているのではなく、なんとなく青空のもと、朝のみずみずしい空気につつまれていた。目の前を通りすぎる人々の姿は季節も変わり、露出度の高いジョギング姿が目立ってきたようだ。
 ひなのはそんなジョギングの邪魔にならないように、でも爛漫に足を投げ出している。まるで相談事とかないようにさえ見える。
 桜子は未明までの航との行為を思い出しながら、晴れ渡った青空に目を細めながら、珈琲を口に運んだ。
「ねぇ、どうしよう」
「なんだったっけ」
 ひなのの小さくささやくような不安げな問いかけに、桜子は正直、一瞬何のことかわからないでいた。
ーあれ?どうしてここにひなのちゃんと一緒にいるんだろう。
 きょとんとした眼で桜子はひなのを見つめた。
「上の空だね」
 ひなのはぽつりと言った。相手にしてもらえない寂しさが表情からも見て取れた。
「確かに桜子さんにとっては他愛もないことかもしれないよ。突然電話して押しかけて、そんなことを相談しにきて申し訳ないと思ってるよ。でもね」
 ひなのは視線を足元に落とした。その視線の先を追った桜子には小さな羽根を運ぶ働き蟻が目に入った。
ーこんな朝早くからもう働いてるんだ。
「でもね、聞いて欲しいの」
 黒くて大きな働き蟻はひなののつま先のあたりまで羽根を運んできた。
「結局、わたしを束縛したいだけなんじゃないのかなぁ、瑛太は」
「束縛ねぇ」
ーわたしなんてもっと航に束縛されたいなぁって最近思うんだけどなぁ。もっと素直に束縛してって言えるといいのかなぁ。俺との時間を最優先にしろって見つめられたら、それだけでもうとろけちゃうのになぁ。
 そう言ってくれない航、本当は言われちゃうと自分の気持ちがどう変化するか不安な桜子、でも今朝の桜子は航に束縛されたいなぁっと、ひなのの声を聞きながら素直にそう思っていた。
「だって一緒に住まなくったって、電話とかメールとかで十分わたしの時間に入ってきているのよ」
「連絡来ないとどうかな」
「連絡途絶えたことないから、わかんないや」
「ふっと途絶えるとどう感じると思う」
「想像もできない」
「途絶えるだけじゃなくて、うーん、そうだね、連絡が来なくなるだけじゃなくってが近いかな、来なくなるだけじゃなくって、こっちからの連絡がつかなくなったらどうかな」
「わたしから連絡したこと今までないもんなぁ。必ず瑛太からの連絡のときにこっちの用件も済ませちゃってるからなぁ」
「深夜に人影が現れて、怖かった時期があったじゃない」
「確かにあのときは瑛太に相談したわよ。でもあれは特別。あり得ないことが起こってたんだもん」
 いつの間にか、働き蟻は視界から消えていた。思っていた以上に運ぶのは早いようだ。
「それにもう現れないよね」
 桜子とひなのはふたりの間の空気が微妙に揺れた気がした。
「そんなこともあったから、余計に瑛太の気持ちを押したんじゃないのかな」
ー学生の頃からの航とわたしの付き合い。空気みたいな自然な付き合い、気づいたらそばに来ていた、抱き合って抱かれあっていろんな体位もすんなりやって、でも何か不安、一言何かが欲しいんだろうな、わたしは。
「いいなぁ、そんな悩み」
「やっぱり真剣に聞いていないっ」
 でもひなのは何かに気づいたように、うれしそうに笑っている。対照的に桜子は少し固い笑顔をひなのに返し「きっとひなのは瑛太に対してもう少しじらすんだろうな」と思いながら、また航とのことを考えていた。
ーねぇわたしをちゃんと束縛してくれないかなぁ。

(続く)

Written by ken1

2010/06/13 @ 10:17

カテゴリー: zoo

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