きみのもしもし #160
「もしもーしっ、まだですかぁ」
きみが小さい声で、そしてぼくを見つめている。少しだけ不満な感じを言葉に乗せて。
ぼくは被写体深度の関係でそれほど正確にピントを合わせなくても、それなりに撮れることは知っている。
でもね、
「もう撮るよ」
ぼくはもう一度ピントを確認し、できるだけ優しく返事を返す。
「だからね、今日もまた違うカメラでしょ。1台に絞って使ってればもっともっとさくっと撮れるようになるんじゃないかなぁ」
確かにそうかもね。
ーカメラを絞ってレンズを増やせばいいんだよね。
「うーん、それもなぁ」
きみが少し困った顔をしている。まるで、ぼくの代わりに悩んでくれているよう。
ぼくはぼくで、そんなきみに言いたくってたまらない。
ーねぇ、海を見に行かないか。秋の海風をバックに、きみの笑顔を撮りたいんだ。
でもまだ言えないぼくがいる。
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