Archive for 12月 12th, 2010
きみのもしもし #164
「もう年賀状書かなくっちゃね」
でもそれほど切羽詰まった様子もなく、きみは蜜柑を鞄から取り出しながら、さらりと言った。
「どんな絵柄にしようかなぁ」
蜜柑の皮をむいて、半分をぼくに差し出す。
「あっ、まだ年賀状買ってないや」
蜜柑を口に頬張ったまま、もごもごと言っている。
今年はきみからどんな年賀状が届くのだろう。
目の前のそんな調子じゃ、元旦には届かないかな。
公園のベンチで逆光の中にいるきみを、目を細めて見ていると、きみが顔を近づけてきた。
ーもしもし、今から年賀状買いに行くの付合ってよ、ねっ。
こんなところで耳元に甘くささやかれてもなぁ。
きみはもう一個蜜柑を取り出すと、ぼくにそのまま手渡した。
「おだちんっ。ねっ」
しようがない、立ち上がるか。
ぼくの苦笑いが、きみの笑顔を作ったようだ。