きみのもしもし #178
肌寒い春の日、昨日までの陽気はどこへ行ったのだろう。
「そろそろ桜だね」
カフェで最近冷たい飲み物を注文する傾向にあったぼくたちも、今日は温かい珈琲を口にしている。
今日のカフェからは咲く準備旺盛な桜が数本見える。
きっと今日がもし少しだけでも昨日より暖かければ、あの桜はピンク色の花を見せてくれていたのだろう。
でもこのテーブルから見える限りつぼみはまたきゅっと身構えているかのよう。
「もしもし」
きみが何か自慢げな声色でぼくに話しかける。
「ここに来る途中でね」
少し身を乗り出し、頬杖をついているきみ。
「少しだけ咲いている桜の木があったの」
「きっとそこは陽だまりなのかな」
「そうだと思う。行かない?」
今日はこんなに寒いのにせっかく桜も咲いてくれているのだからと、
きみに手をひかれてぼくらはカフェを後にした。
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