きみのもしもし #197
「それも捨てるの?」
部屋の外から様子を見ていたきみが、多少あきれたような抑揚で声をかけてくる。
ぼくの部屋は整理のために棚から下ろされた物たちであふれて、足の踏み場もないくらい。
その物たちを躊躇なく廃棄用の袋に投げ入れるぼくがいる。
「これほんとに捨てるのぉ?」
きみは半歩足を踏み入れて、ぼくからひとつ物を取り上げる。
「けっこう使ってたじゃない」
「でも最近は使っていないし、もうこれからは使わないからさ」
「愛着とかは」
「感じてたら整理がつかないよ」
「わかるけど」
と言いながらも、きみはまったく理解できない表情。
ぼくは別の物をとりあげて、きみに一言付け加える。
「たとえばこれは愛着があるし、まだまだ使えるから、ぼく以外の誰かに使ってもらえるようにするよ」
まだまだ納得できないきみがいる。
「思い出はね、捨てられないから大丈夫」
「ふぅん」
ちょっとだけ表情が明るくなったきみは「珈琲入れたげる」とキッチンに入っていった。
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