きみのもしもし #227
終電間近の帰り道、ぼくの行きつけのバーでほんのりと頬を赤くしたきみがいる。
春はもうそこまで来ていると言うのに、夜風は相変わらずぼくらにマフラーを要求する。
「寒くないか?」
「大丈夫っ」
寒さのインジケーターのきみの鼻先は、確かにまだ赤くない。
きみは手袋をした手を見せながら、何枚重ね着をしているかを教えてくれる。
「自分が寒いんでしょ。春が近いと思って少し薄いコートにしたんじゃないの」
そうでもないんだけど、きみはぼくを暖めようと腕を絡ませ身体をぴったりくっつけてくる。
悪くはないな。
そして他愛のない会話がはずむ。
「もしもし」
立ち止まるきみ。
「今夜はどちらにお帰りですか」
少しだけ鼻先が赤くなったきみが、上目遣いにぼくを見つめる。
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