風、空、きみ

talk to myself

きみのもしもし #249

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 ジジッ、ジジッと足下で音がする。
ーきっと今日が最後の日なんだね。
 ぼくは最後まで鳴こうとしているセミに目をやる。
 セミのそばにはちっちゃな女の子が座り込んでいた。
 その隣に虫取り網を手にした男の子が立っている。
「そいつ、もうだめだよ。元気なの採ってやるから。あっちに行こう」
 女の子はじっと足下のセミから目を離さず、立ち上がろうとしない。
 男の子はぼくのことなど眼中にないような動きで、女の子の手を取った。
「何みてるの」
 横からきみの声がした。
 ぼくは足下のセミを指差す。
ーあれ?子供たちは?
 きみは怪訝そうな顔をする。
「ここにいるのは、あなたとわたしと、そして動かないセミ一匹だけだよ」
ー何を見たのかな。
 気がつくとたくさんのセミが頭上で鳴いていた。
 こんなにもたくさんいたんだ。
「夏も終わりかな」
 頭上に目を向けず足下のセミを見ているきみと、さっきの女の子が重なった。
 そして、女の子の手を取った男の子の気持ちがちょっとだけ分かったような気がした。
ーまだもう少し夏はあるよ。
 ぼくはきみの手を取った。
ーそうだ、これからセミ採りに行こうっ。
「もしもし、、、」
 何か言いかけたきみにぼくは尋ねた。
 そんなわけはないよな、そう分かっていながらもつい聞いてみた。
ーねぇ小さいときさ、一緒にセミ採りに行ったっけ?

Written by ken1

2012/08/25 @ 19:34

カテゴリー: kiss

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