Archive for 10月 2012
きみのもしもし #258
いったいどこに行っているのだろう。
メールに写真が添付されてきた。
赤ワインが注がれたグラス。
きみはランチを楽しんでいる模様。
ー家にこもってばかりいないでさ、街へ出かけよぉ。
そして、ほろ酔い気分が伝わってくる文面。
ーいいなぁ。
ーさっさと終わらせちゃいな。夕方からは時間空いてるよ。
写真のグラスの向こうにはボトルも見える。
ー夕方にはもうかなり出来上がってるんじゃないのかな。
ーもしもしっ。いいから終わり次第合流してよね。
頬を赤くして饒舌になったきみを、冷静に観察できるのは面白いかも。
ー了解。あとでね。
それだけメールを返すと、やりかけの夏服と冬服の入替えを再開した。
さっさと終わらせちゃいますか。
でも、ほんときみはいったいどこにいるのかな。
きみのもしもし #257
「手はつなぐためにあるんじゃないのかな」
きみはiPadから顔を上げると唐突にそう言った。
「と、このコミックでも主人公の彼女がそう言っている」
ぼくはふーんと聞き流しながらも、きみの右手と握手する。
「違うでしょ、つなぐってさ。それは握手」
ーそうなんだけどさ、なんか照れくさいじゃん。
当然、きみは納得しない。
「ねぇ、散歩に行かない?」とぼく。
「手をつないでくれるんだったら」ときみ。
ーもちろん。
ぼくは右手をきみの左手に差し出した。