きみのもしもし #256
「また新しいの買ったんだぁ」
部屋の片隅に目立たないように置いていた真新しい一台を指しながら、きみがそう言った。
目ざといなぁ。
不思議と自然に頭をかいている自分に気づいた。
いつものように最初の1枚はきみを撮るつもりでいたぼくは、
その真新しい一台に手を伸ばした。
「またじゃないよ。今までずっと中古ばっかりだったからね」
「でもまた買ったんでしょ」
「並行輸入だよ」
「でも買ったんでしょ」
まぁそうだろうけどさ。
「1枚目、撮るよ」
ぼくはきみにポーズを促す。
きみは話をそらされたと感じているのか、首を傾げている。
「初めての新品?」
「だね」
ファインダーを覗くぼくの目に、まだ首を傾げているきみが見える。
「今回の最初の1枚、あなたが被写体になるのなんてどう?」
「え」
「もしもし、いいアイディアでしょ」
最高の1枚は日々更新されるけど、最初の1枚は後にも先にもそれしかない大事な1枚。
どこかの誰かの受け売りだけど、大好きな台詞。
きみはもう首を傾げていなく、にこにことしている。
「お借りできますか」ときみが言う。
「お願いします」とぼくはきみにカメラを差し出す。
そうしたものの、きみは今、取り扱いに困惑模様。
そりぁそうだよね。
きみは照れくさそうにくすりと微笑んだ。
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