きみのもしもし #266
「ポストカードって言ったっけ」
きみはぼくがかなり前に話したキーワードを口にした。
気軽に誰もが手にできる、気軽にそばに置いてくれる、気軽にいいなって思ってくれる、
そんな写真を撮りたいと思っていたあの頃、ぼくはポストカードを例えにあげていた。
「最近、モノクロばっかりじゃん」
感じた色が残せない、そんな思いがなかったわけじゃないけど、
ひとの表情や気持ちが素直に伝わってくるのはモノクロじゃないかと思い始めた。
カラーフィルムが世に出てきたとき、ひとは「なぜモノクロじゃだめなの」と。
今、モノクロで写真を撮ると友だちは「なぜカラーじゃないの」と。
「空の写真が欲しい」
きみがぽつりとそう言った。
ぼくは数ヶ月前、紅葉をモノクロでどう撮ろうかと、どう撮ればこの色が伝わるだろうかと考えながら撮っていた。
でもそうじゃないよね。
色を伝える必要はないんじゃないかと、ぼくはぼくなりの結論を出した。
伝えたいのは色じゃない、ぼくが伝えたいのはその場の雰囲気なんだ。そのときの気持ちなんだ。
「もしもし、カラーじゃなくていいんだよ」
きみはぼくの思いを知ってか知らずか、そう付け加えた。
「あなたが感じる空の写真をちょうだい」
任せておくれ。
雨上がりの空からひとすじの光が漏れてきた。
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