Archive for 3月 2013
きみのもしもし #280
まだ連絡ないしほんとに行くのかな、と思いつつカメラを選んでいた。
まずはレンズで悩んで、次にボディで悩む、そして全体感と携帯性でまた振り出しに戻る。
ー寒いね。おはよ。まだおふとん。
ほぼほぼ出る準備が整ったぼくへのきみからのメールに、ぼくは苦笑い。
ーおはようございます。お約束の時間、ずらしますか。
少し他人行儀な返信を打ってみる。
返事はない。おやおや。
するとこのぽっかり空いた待ち時間で、ぼくはまたカメラの組み合わせに引き戻される。
もう決めた事なんだから、バックに詰めた組み合わせでいいはずなんだけど、
毎回最後まで悩むんだよなぁ。
ー大丈夫、時間どおりで。でも、
でも何だろう。受信画面をスクロール、スクロール。
ーでも、お化粧はそこそこだから写真撮るならカラーじゃなくてモノクロでね。
えっ。
ぼくはちょっと固まってしまう。
春だしせっかくだからカラーフィルムをM3に装填したのに。。。
ーかしこまりました、お嬢さま。仰せの通りにいたします。
さてと装填したカラーフィルムももったいないし、
別のボディ、M4にモノクロフィルムを装填しましょうかね。
きみのもしもし #279
ーわたしはひとつ渋谷寄りの駅から歩くね。
ーぼくは到着駅からだね。
ふたつの駅をつなぐように川は流れている。
その川沿い、右側と左側に歩道があり、当然それぞれの歩道沿いに桜が咲いている。
両側の桜は枝を伸ばし、川をアーチ型に覆っている。
駅を降りたところはほとんど歩けないくらいに人でごった返していた。
きみからのメールに添付されてくる写真もまずは人の頭ばかり。
それはぼくのも同様か。
どのくらい歩いたのだろう。
なんとなくさっき観ていた桜とその周辺に似通った写真がきみから送られてきた。
ーどっちの歩道を歩いているのかな?
ー右側に決まってるじゃない。人は右、車は左の日本だよ。
あれ、と言う事は。
ーぼくもきみも右側通行なんだね。
ぼくは立ち止まり左斜め後ろを振り返る。
そこにはぼくを見つけて大きく手を振っているきみがいた。
あぶない、あぶない。危うくひとりで全部の桜を観終わるところだった。
「ねっ、行く?戻る?」
そっか、出会ってからの行動を決めてなかったね。
ぼくらは声を出して笑ってしまった。
きみのもしもし #278
久しぶりに車のエンジンをかけた。
黄砂で真っ白なボディの洗車を待つ間、きみにメールを入れてみた。
ーどっか行かない?
ー相変わらず、急だね。
今年の花粉症はひどい、とくに眼に来るときみは言っていた。
だから車からほとんど降りずに、クルージング中心。
ーうん、ドライブ、ドライブ。行こっ。
そしてどのくらい走ったんだろう。
ウインドーから差し込む暖かい日射しがきみをうとうとさせていた。
だからちょっと気を抜いて、ぼくは信号待ちで大きくあくびをした。
すると、きみは不思議と目を覚まし、
「もしもし、このまま桜を見に行こうよ」
きみはそう言うし、たしかに春の陽気だけどさ、まだまだ梅どまりだよ。
寝ぼけ眼のきみは不思議そうな顔をしている。