Archive for 5月 12th, 2013
きみのもしもし #286
「もしもしっ、どうして通りすぎるかなぁ。どうして気づかないのかなぁ」
きみは少しきつめの語調で、かつくちびるをとがらせて、腕を組んでいる。
いや、気づいてはいたし。
もごもご。
声はかけそびれたけれど、目配せはしたつもりなんだけどなぁ。
もごもごもご。
「聞こえないっ」
はい。。。
「はいじゃない。ちゃんと声かけてよ」
抱きしめたり、頬にキスしたり。
「ふざけないのっ」
どうやら一緒にいた友だちがきみより先に気づいて「ぼくが無視した」んじゃないかと言われたらしい。「なんか不穏な感じがした」とも言われたらしい。
そんなことはないんだけどなぁ。
「だったら、ちゃんと挨拶するっ」
きみの友だちがたくさんいると躊躇しちゃうんだよねぇ。
「もうっ」
きみが思っている以上に集団の女子のオーラって独特のものがあるんだよ。
きみは半分あきれたように頬杖をついた。
「きみひとりだったらいいんだけどね」
ぼくもきみに向かって頬杖をついてみた。