Archive for 6月 2013
きみのもしもし #293
週末のみ有効な回数券、そんなものが郵便受けに届いていた。
正確に表現すると、郵便受けの封筒を開いたら、土休日回数券が入っていた。
差出人はきみ。
ーどうしたの。
ぼくは訳が分からず、きみにメールする。
いつものような即答の返信が来ない。
どのくらい待ったのだろう。
メールはいつしか即答を期待させるツールになっていることに気づく。
気楽にやり取りできるから電話じゃなくてメールなのにね。
きみからのメールが来るまでの時間、珈琲をいれることにしよう。
今日はそうだな、ブラジルサントスにするか。
まだ豆をひいている最中なのに、スマホの着信がまた気になる。
だめだめとぼくは首を振る。
「もしもーし」
きっとメールの冒頭はこの言葉なんだろうな。
抑揚まで予想してしまう。
そんな思いを募らせながら、いれたての珈琲の香りを楽しむ。
うん、うまくはいったな。
きみのもしもし #292
「いったい何枚撮ったの」
きみは半ばあきれ顔、半ば興味本位の楽しそうな顔で操作中のMacBookを覗き込む。
MacBookがうなりを上げて、ぼくにかなりの枚数の写真を処理させられていることをきみに訴える。
「酷使しちゃって。壊れちゃうよ」
あなたも一休みすればと、きみはいれたての珈琲を横に置く。
うん、いい香りだ。
久しぶりにきみがいれた珈琲を口にして、軽い背伸びで気分転換。
「整理がついたらお土産話を聞かせてくれるのかな」
きみはデスクの横に腰を下ろしひざを抱え、いたずらっぽい目つきでぼくを見上げる。
そうだね、もう少しだからちょっと待ってて。
そしてもう一口、珈琲を味わう。
「もしもーし」
ん?
「もしもーし」
どうしたのかな。
「なんでもない。なんとなく呼んでみただけ」
きみは今度はネコみたいにごろりとカーペットに横になる。
「もしもーし。こうして会うの久しぶりだね」
うん。
ぼくは手を伸ばし、きみの髪の毛に軽くふれた。
きみのもしもし #291
ボンジュールと言ってみたり、オーボォアと言ってみたり。たまにはサバ、サリュ。
いろんなときにきみが口にするもしもしは、どの言葉に一番近いんだろう。
こっちでしかお目にかかれない、広い青空に浮かんでいるまさに大陸型の白い雲を見上げながら、
そんなことを思った。
そして観光客のいない1本裏の路地に入り、石畳のありように昔ながらのこの地を感じてみる。
きみへのメインのお土産はこの街の空気を写し取った写真と、それにまつわるぼくの物語かな。
飛行機で12時間、時差で7時間のこの地から、きみのもしもしを思い出しています。