Archive for 6月 2013
きみのもしもし #290
カメラとカードとパスポート、これだけあればどうにかなる気がしてきた。
もちろん飛行機のチケットも。
足りない物は現地で買えばいっか。
相変わらずの「まぁどうにかなるでしょ」感覚。
これはきみと知り合うずっと以前から変わらない。
「どうしてまた急にひとりで行くかな」
「思い立ったからね」
「毎回、そうじゃん」
「今から一緒に来る?」
「無茶言わないの。でも向こうで偶然会ったりしたら面白いかもね」
スマホの向こうにきみの屈託のない笑顔が見える。
「もしもし。お味噌汁のもとと梅干しと緑茶パックは持って行くんだよ」
きみはお袋みたいな事を言う。
「もしもし、それからね」
ここからが長い。ぼくの荷物はきみのアドバイスであふれそう。
「もしもし、これがさいご。お土産はちゃんと買ってきてね」
あれ?ふつうお土産はいらないから元気で帰ってきてね、じゃないのかなぁ。
「うぅうん。お土産を買ってくるっとことはちゃんと帰ってくるってことでしょ」
きみはさらりとそう言った。
きみのもしもし #289
「もしもし、遅れちゃ失礼だよ」
枕元のスマホが着信を知らせる。
今朝は珍しくメールではなくて、きみの肉声で起こされた。
10年ぶりだろうか、今日は懐かしい友人とランチを取る。
いつもの週末より少しだけ早起きが必要だと、昨夜きみに伝えておいた。
「もしもし、飲みすぎもだめだよ」
以前の記憶があるのだろう。
確かにあの頃は昼間から夜遅くまで飲んだりもしてたね。
「もしもし、寄り道しないで帰るんだよ」
ーでもね、寄り道はしちゃいそうだな。
きみの声を聞きながら、きみの笑顔が妙に懐かしく思えてきた。
昨日会ったばっかりなのにね。
唐突な返事にきみの頭の上にクエスチョンマークがいくつか浮かんでるんだろうね。
ーでは、ちょっくら行ってきます。
ぼくはもそもそとベッドから起きだした。