きみのもしもし #301
無性に田舎に戻りたくなった。
田舎で何か行事があるわけでもなく、誰かに呼ばれたわけでもない。
ただ、幼い頃の自分の目線で写真を撮りたくなった。
身長170cmの目線ではなく、幼稚園児くらいの目線で、懐かしい風景を。
今だとこんなにも低くて小さくて見落としてしまいそうなものや風景を、当時はどんな感覚で見ていたのだろう。
それを確かめたくなった。
忘れている事、忘れ始めている事、でも忘れちゃ行けない事、忘れない方がいい事。
いろいろとおさらいしたくなった。
きっかけはね。
「もしもし、言わなくてもなんとなくわかるわよ」
きみはちょっとだけ微笑んでそう言った。
「昨日、何かの写真展に行ってたよね」
いつものことねって顔してるきみ。
「そこでいいもの観たんでしょ。何かに触れたんでしょ」
そんな高尚なことでもないんだけどさ。
「いいわね」
えっ。
「戻れる田舎があってさ」
きみはまた微笑んでいる。
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