Archive for 9月 2013
きみのもしもし #306
話に返事をしながらも、きみはキッチンに立っていた。
会話のやりとりに違和感もなかったのでそのまま何気に話していると、いい香りがリビングを満たす。
おや?珈琲の香りだ。
きみはどうもコーヒーメーカーを使わず、ドリップ式でお湯を注いでいるようだ。
会話が途切れたからか、
「飲むでしょ」
とキッチンから今更ながらに聞いてくる。
「もちろん」
ぼくは二つ返事できみのいれてくれる珈琲を待つ。
目をつむり、差し出された珈琲の香りを楽しんでいると、
「もしもし、新しい豆だってわかったぁ?」
きみは自慢げにぼくの前で腕を組んでいた。
きみのもしもし #305
この三連休、きみとぼくは別々の行動。
毎週末一緒にいる訳でもないし、きみもぼくもふらりとどっかに行く癖があるので、そんなもんかな。
「何してすごすの?」
「写真撮って、本読んで、いつもと一緒かな。そう言えば落語のチケットが取れたのでそれは行くよ」
「いーないーな」
「でも予定あるんだろ」
「友だちと遊園地」
遊園地という響きが妙に懐かしい。
珈琲カップで目が回ったな。フライングカーペットで腰を痛めたな。ジェットコースターではけっこう強がってたりして。
あれ?誰との思い出だろう。
「もしもし、わたしたちまだ一緒に遊園地行った事ないね」
ぼくの回想を見透かしたようなきみの一言。
くわばらくわばら。
「うん、いつでもいいよ」
と、ぼくは出来るだけ平静を装ってみた。