Archive for 10月 2013
きみのもしもし #310
きみに笑っていて欲しいんだ。
どんなときでもきみを笑わせてあげたいんだ。
そう思うのは簡単なんだけど、
でも、きみに笑っていて欲しいんだ。
「何か言ってくれそうだけど」
きみが一生懸命笑顔を繕っている。
「今は何も言ってくれなくてもいいからね」
きみのくちびるは少し震えている。
「も少しで元に戻るから。大丈夫だから」
ぼくはゆっくり頷きそっとと立ち上がり、珈琲を入れる。
お湯を沸かして、豆を挽いて、そしてきみの方に振り返る。
「もしもし、やっぱり」
「うん、わかった。何か話をしたげるよ。どこにでもあるふつうの話」
きみは少しだけ微笑んだ。
その拍子に流れた涙をきまり悪そうに拭き取るきみがいる。
きみのもしもし #309
テレビも点けず、ラジオも点けず、音楽さえも鳴らさない。
雨音と風の音に耳を傾け、それでもそれなりに明るい空をぼーと見ている。
右手には入れたばかりの珈琲を持ち、香りと味を確かめながら。
ちょっと濃かったかな。一口めはそんな気がした。
二口め。味に慣れたのか、まんざらでもない気がしてくる。
でも、やっぱりきみの入れる珈琲にはかなわないな。
香りを確かめながらそう思った。
秋の早朝、秋雨も重なり今朝はかなり肌寒い。
そう、あっつい珈琲がとても恋しい季節になったんだ。
ーもしもっし。こんな季節の美味しい珈琲はこうやって入れるんだよ。
きみの自慢げな顔が窓ガラスに浮かんだ気がした。
きみのもしもし #308
「もしもし、起きてますかぁ」
「もしもし、珈琲飲みますかぁ」
ほぼ10分置きにきみが声をかけてくる。
そんなに心配しなくても、まだまだ大丈夫だよ。
ぼくはその都度「さんきゅ」と答える。
この先渋滞52Km。高速道路の電光掲示板がいっこうに減らない距離数を知らせてくれる。
ーおっと、急にブレーキをかけないでくれよ。
ーおいおい、割り込むんでもウインカーは出してくれよ。
そんなことを言いたくなる車が2台続いた。
「もしもし、フリスクはどうですかぁ」
きみは察知したのかな。
確かにブレーキを踏み込むタイミングがワンテンポ遅れたかも。
それでもぼくはまた「さんきゅ」と答えた。