Archive for 11月 2013
きみのもしもし #312
朝晩がそれなりに肌寒くなってきたと思っていたら、
今日は昼間から身体の芯が冷える。
「こんなときはわたしの珈琲でしょ。あっついの入れたげる」
きみはキッチンに立ち、グラインダーで豆を挽きだす。
挽かれた豆のいい香りが、こっちの部屋まで香ってくる。
ぼくは香りに魅かれるようにキッチンに足を踏み入れ、
きみを背中から抱きしめた。
「珈琲、まだかな」
「もしもし、珈琲よりほんとはわたしの人肌が恋しいんじゃないのぉ」
きみはいたずらっぽい笑顔で振り返った。
きみのもしもし #311
珈琲豆を入れた缶のふたが開かない。
力任せにやったら、勢い余って中の豆をばらまいてしまった。あらら。
気を取り直して、洗いざらしのデニムのシャツに袖を通してみる。
少しだけ洗剤の香りもして、ちょっとだけにんまり。
入れたての珈琲を横に起き、きみにメールしようとMacを立ち上げると、
eBayから「あなたの興味はこれですか」と商品画像が列挙される。
確かにそれだ。希望には完璧に合致はしないけど、それを補うには余りあるデザイン。
つい「Buy It Now」を押してしまう。
そして、傍らの珈琲を一口すすり、きみのスマホに向けた送信ボタンを押す。
ーもしもし、朝から何やってるの?
雲の取れてきた空を見ながらぼーっとしてます。
ーあら、いいわね。でも、ぼーっとしておっちょこちょいなことやらないように。
・・・。
ーもしもし?わかったぁ?
きみはそばにいなくてもまったくすべてお見通しなのかな。
珈琲カップの先に床に転がっている珈琲豆が目に入った。