きみのもしもし #331
桜の花が、所々に咲いていた。
昨日までの陽気とは打って変わって、革ジャンのジッパーを止める必要がある。
まだ花冷えと言うほどには桜は咲いておらず、まずは三寒四温なんだろう。
きみは咲いている桜に近づくと、iPhoneを取り出し写真を撮り始める。
友だちの誰かに春を教えてあげるのかな。
ぼくはそんなきみにピントを合わせてパシャリと1枚。
レンジファインダー機の小さくも小気味よい音がぼくを満足させる。
「もしもし」
はいはい、何でしょう。
「盗み撮りだけじゃなくて、桜をバックにちゃんとわたしを撮ってよね」
そうだよね。
これからの一ヶ月、桜をバックに何枚のきみを撮るのだろう。
いつものようにその中の何枚かが印刷される。
その中の1枚が今日の写真なんだよね。
はい、ポーズっ。
きみの笑顔の後ろで、桜の花が小さく揺れていた。
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