Archive for 5月 2014
きみのもしもし #338
「歩いてるのよ」
どこからどこに歩いてるのだろう。
「イヤフォンでね、YouTube聴きながら歩いてるの」
そして何を聴いているのかな。
「さっきまで映画を観てたの」
何の映画だろう。
今ぼくはきみからのLINEを追っている。
返事をしようとすると次のLINEが現れる。
まったく返信するタイミングを逸してしまう。
ぼく的にはきみの様子が伺えていいんだけどさ。
「もしもし、なにか言ってよ」
ぼくがちょっとよそ見をしている間に、きみからのリクエスト。
と言うか、そうだよね、タイムリーに反応は欲しいよね。
「ひとりでね、映画を観てたのっ」
「あなたと連絡取れないから」
「今日、何してたの?」
そっか、そうだ、約束してたんだ。
ほんと、すっかり忘れてた。
これはまずいぞ。
「もしもし、もしもし」
LINEどころじゃないな。電話しなきゃ。
きみのもしもし #337
久しぶりにきみとバーでグラスを傾ける。
あまりに久しぶりすぎて、何から話していいのか躊躇してしまう。
昼間のカフェだとこんな緊張もないのにね。
ふたりして顔を見合わせ照れ笑い。
ふたり並んだカウンターから見えるボトルの列を、1本ずつ簡単に紹介してみることにした。
そうしているうちに緊張も解けるだろうし、話題も飛び火することだろう。
それを期待し、そしてその期待は当たる。
グラスがゆっくりと3杯めにかかるころには、酔いも手伝い話題はたくさん飛び火した。
飛び火はいいのだけど、つい今しがたの話題を即座に思い返せない。
それも話題の一つになって、きみとのお酒がまた進む。
「そろそろ終電かな」
「も少しだけ時間あるよ」
「じゃ裏通りを少し散歩して酔いをさまそうか」
「もしもし」
「ん」
「裏通りで襲ったりしないでね」
何を言いだすかと思えば、そうきましたか。
「それもいいかもね」
「うん、それもいいよ」
それなのにこれが最後とまたお代わりをするぼくら。
終電だいじょうぶかなぁ。