Archive for 2月 2015
きみのもしもし #378
ーもっと話したかったのに。
きみのその言葉がずっと頭から離れない。
馴染みのお店できみに偶然会って、
こんなこともあるんだねと、カウンターに並んで座ってみたぼくら。
お店の雰囲気に包まれたまま、
常連さんたちとの会話も弾み、
ワインボトルは2本ほど空けた。
そして、ぼくらは店を後にする。
暖まったほっぺに2月の夜風が心地よく、
ぼくは楽しい夜を過ごせたなと思っていた。
ーもしもし、今度はデートをしませんか。
繋いでいた手をきみは少し強く握りしめ、
白い息をぼくに吐きかける。
はい、よろこんで。と、ぼくも少し強く握り返す。
ーデートなんだからもっとたくさんお話しするのよ。
きみの鼻先はほんのり赤い。
そうだね、次はもっと話をしよう。
もっともっと話をしよう。
きみのもしもし #377
チョコが宅配便で届く。
見知らぬ差出人。
ここの住所を知っている、と言うことは、
ぼくがこのひとを思い出せないだけなのか。
現実感のない不思議な感覚に包まれたまま、箱を開く。
中にはメッセージカードが入っていた。
ー本命の人ができるまで、チョコを贈っても良いですか。
読みようによっては、意味深すぎるメッセージ。
贈ってもよいかと尋ねながら、すでに送ってきているし。
頭がクラクラし、たどろうとする記憶も心もとない。
「もしもーし。どなたですか、その方は?」
ぼくの代わりに宅配便のお兄さんに捺印したきみが覗き込む。
「うーん、わからない」
「そんなこと、ないでしょ」
きみは冷ややかな笑みを浮かべている。
「ちゃんと思い出してあげなさい。失礼よ」
そう言われてもなぁ。
もっとわかりやすいメッセージにしてくれないかなぁ。
バレンタインのちょっとした?ハプニング。
さてと、どうしたものかしらん。
きみのもしもし #376
読みたい本が溜まっている。
ハードカバーもあったり、ペーパーバックもあったり、最近ではKindle本もある。
読みたい本や興味をそそられる本が見つかるとつい買ってしまう。
もちろん新品ばかりではなく、あえてマーケットプレイスから購入する場合もある。
「図書館で借りればいいじゃん」
きみはさらりとそう言った。
その通りなんだけどね。
図書館から借りてくると、なぜかほとんど読まないうちに返却期限日になってしまう。
不思議なものだ。
読もうとする意思が弱いのかも知れない。
だから返却期限日になってしまうのだろうし、
この部屋の足元に山積みに放置されるのだろう。
買ってしまうと安心するし、
買ってしまうと自腹を切った分だけ読まなくっちゃとも思ってしまう。
「もしもし、いつ読むんですか?」
はい、暖かくなったら読もうかな。
足元の本の山を一緒に見下ろしていたきみは、
腕を組み、口をへの字に曲げて、首を横に振る。
きみのもしもし #375
「これから会いに行くんだよね」
きみが少し神妙にしているぼくのために珈琲を入れてくれる。
ぼくはきみに目をやり、静かに頷く。
ずっと以前、結構交流あってさ。
目の前に置かれた珈琲から立ち上がる湯気に視線を移す。
いつからかなぁ、交流が減って。
気づいたらもういなくなってたんだよね。
「今日は何人集まるの」
みんないろいろあるから結局全部で7名かな。
「仲良しさんばっかりでしょ」
うん、そうだよ。
「それだけほんとの仲良しが集まってくれるって幸せだよ。もしもし」
うん?
「笑顔で行かないと。友だちもきみの笑顔を待ってるよ」
そうだね。
手元に準備した数珠を見ながら、
きみが入れてくれた珈琲を口に運んだ。