Archive for 5月 2015
きみのもしもし #391
テレビを観ながら、きみが自慢げにぼくに話しかけてくる。
「最近、珈琲ってさ、流行りになってるよね」
昨夜のとある番組でも、出演していた女優さんが珈琲にはまっていると言っていた。
今もこだわりの珈琲を淹れるカフェの特集が流れている。
珈琲が旬っぽいのはわかるけど、なんできみがそんなに自慢げなんだろう。
「半年前のお話です」
・・・。
「半年前、わたしは言いました。珈琲に関する習い事に行こうかなと」
・・・。
「きっとわたしは予見していたのよねぇ」
・・・。
「もしもし、すごくない?」
そうだね、すごいね。大したものだね。
でも、結局きみはその習い事には行かなかった。
なんてことは口にしないことにしよう。
代わりに、珈琲淹れようか。と、ぼく。
うぅん、わたしが淹れるわ。と、きみ。
そうだね、今日の珈琲はきみにお願いすることにしよう。
うん、そうしよう。
きみのもしもし #390
きみが柔らかい手を重ねてくる。
重ねたまま、微動だにせず、気づくと寝息を立てている。
疲れが溜まっているのか、安心しているのか、
どちらにしろ、背中を丸めすーすーと寝息を立てている。
ーあのね。
おや、起こしちゃったかな。
ーもしも。
え?
ーもしもし。
どうしたのかな。
確認しようと、きみの顔にぼくの顔を近づける。
でも、きみはまたすーすーと寝息を立てている。
なんだ、寝言か。
ぼくはきみの顔を鼻の先にしたまま、
きみの横できみを見つめる。
きみは柔らかい手をぼくに預けたまま、
微動だにせず、寝息を立てている。
きみのもしもし #389
銀座の街を歩く、歩く、歩く。
ライカはいつものように肩から斜め掛けにはせず、
今日はディパックに入れている。
何気にピンと来るものを感じた時にすかさず取り出す。
絞り、シャッタースピード、ピントを即座に合わせる。
ここに着いたときに今日の光を理解して、それぞれおおよその値にしている。
あとはその場、そのときで微調整。で、シャッターを切る。
そしてまた、銀座の街を歩く、歩く、歩く。
ーもしもーし、こちらの用事は済みましたよ。そちらはどうですか?
四丁目で分かれたきみは用事を済ませた模様。
ちょうどぼくもにんまりとする風景を数枚撮れたところ。
ーじゃ、地下食で待ち合わせしよ。
ここに来るのを付き合ってくれたお礼に、美味しいものを買ってくれるらしい。
でも、ぼくはぼくで楽しく写真を撮っていただけなんだけど。
けどまっいっか。きみんちでその美味しいものをいただくことにいたしましょう。
そしてぼくははたと気づいた。
今日はきみの写真を一枚も撮ってない。
陽も傾き始めた。うーむ、さてとどうしょう。