Archive for 6月 2015
きみのもしもし #393
やっと梅雨入り宣言が出そうだというのに、夏休みの予定はもう立てないといけない。
遠いどこかに行くのであれば、予定を立てるイコール様々な予約を申し込むことすら必要になる。
費用の問題だけではなく、乗りたいフライト、泊まってみたいホテル、観たい演劇と様々。
「今年はどうする?」と、きみ。
「今年も別々でしょ」と、ぼく。
ただでさえ仕事の調整が大変なうえに、ふたりの休みを合わせるのは至難の技。
ほんとは毎回思い出を重ねていくのが一番いいんだろうけどね。
ふたりともそんなことは分かっているけど、だけどやっぱり別々にすごす夏休み。
きみは東の方に行きたいと思い、ぼくは西の方に興味がある。
「もしもし、今回も旅の様子はちゃんと話して聞かせてね」
そう、ふたり別々のところに行って、旅の様子をきちんと共有すれば、
それはそれで二重に楽しめるんじゃないかなと、ずっとまえにきみと話し合っていた。
「FaceTimeでつなごうか」
きみは首を横に振る。
「旅の思い出話を、あなたから聞くのが楽しいのよ」
そしてきみはぼくと共有する旅の予定を考え始めた。
きみのもしもし #392
新しい夏を迎えるにあたって、最初の花火大会だとおねえさんがマイクで説明している。
ずっと以前から一度は来たかったこの花火大会。
その打ち上げまであと10分。
この待ち時間が楽しいのかもね。
きみが握ってくれたおにぎりと、途中の商店街で買ったスパークリングワイン。
きみのカバンからはまだまだお菓子も出てくる。
「すごいね、なんでも出てくるね」
「もしもし、わたしを誰だと思っているの?」
きみはにっこりと自慢げな笑顔を見せる。
夜空は小雨交じり、夕方からずっと小康状態が続いている。
「おかしいなぁ、わたしが行く花火大会は全部快晴なのになぁ」
今夜の小雨はもしかしてぼくのせい?
苦笑いのぼくはきみとグラスを重ねる。
そろそろだね。
おねえさんがカウントダウンを告げる。
きみもぼくも姿勢を正し、前方の夜空を凝視する。