Archive for 8月 2015
きみのもしもし #402
珈琲を飲み終えたきみがソファに横になった。
そしてぼくに手招きをする。
ーここ、ここ。
指を指しているのは右足。
ーね、お願い。
きみはたまにそうやって、マッサージを要求してくる。
ターゲットは右足だけではなく、左足も。
はい、もちろん、よろこんで。
ぼくもソファーに移り、腰をすえる。
ーこうやって何かに触れていると、なんとなぁくほっとしない?
触れているぼくも、触れられているきみも確かに安心するみたい。
ー1日会話ができなくてもさ、寝る前にこの時間があるだけでいいよね。
ぼくは自分が微笑んでいることに気づく。
ーもしもし、そう思うでしょ。ねっ。
そしてきみも微笑んでいる。
きみのもしもし #401
日中でも幾分涼しくなってきたので、夕方前からちょっと散歩に出ることにした。
とくに目的も決めず、大通り沿いを避けて、住宅街を右に折れたり左に折れたり。
そして、途中の公園で日陰のベンチに腰掛け、きみにLINEを送った。
ー楽しそうだね。こんな日のカバンの中身は何なの?
Kindleとカメラと水。
ー飴玉は持ってないの?
飴玉?
ーそう、飴玉。
涼しく感じてもまだまだ夏であることに変わりはない。
だから水分補給のみならず塩分補給も必要だと。
ーまだその公園にいる?
今来たばかりだから、もう少しは一休みしているよ。
ーだったらその公園の写真送ってよ。近かったら飴玉持って行ってあげる。
ぼくは少し考えた。
ははーん、写真の位置情報を頼りにここまで来るつもりだね。
ーもしもし、わたしすごい?
鼻高々なきみが見えた気がした。
確かに目の付け所はいいんだけど、どこでそんな知識仕入れたんだろう。
いやいや、それよりうまくいくかなぁ。
ー大丈夫だって。だいじょうぶ。
そう言って、きみは満面の笑顔のスタンプを送ってきた。
きみのもしもし #400
ーもしもーしっ。浴衣好き?
きみから唐突なLINEが入ってきた。
好きか嫌いかと聞かれれば、そりぁ好きさ。
ーわたしの浴衣姿、見たい?
おっいいねぇ。いつ拝めるのかな。
ーこれからジムで汗流すでしょ。そのあと部屋に戻ってからだから。
いつの間にジムに通い出したんだ。
それよりも浴衣ひとりで着れたんだっけ。
ーよーやくね。
相変わらず知らない間にいろいろ始めてるものだ。
いつもきみに会うたびに新鮮な気がするのは、そんなところがあるからかな。
ー今夜のわたしに乞うご期待っ。カメラもお忘れなく。
どんな柄の浴衣なんだろう。
髪の毛は上げてくるのかなぁ。うなじが見れるといいな。
よこしまな気持ちに浸かりながら、ぼくはレンズの選択にとりかかる。
撮り損じは許されないだろうな。
あれ?ぼくは普段のシャツでいいのかなぁ。
と言っても浴衣持ってないもんなぁ。
でもどこに行くつもりなんだろう。
それとも今夜のコースはこれからぼくが考えるのかな。
うーむ、とりあえず考えておくか。
とかなんとか、少しそわそわしだしたぼくがいる。
毎回毎回きみと会うのは楽しいものだ。
さてとカメラとレンズの組み合わせは決まった。
そうだ、あの川沿いの土手を散歩して、その先の河川敷にあるレストランに行ってみよう。
ここまで決めても落ち着かない。
早く浴衣姿のきみに会いたいなぁ。
きみのもしもし #399
部屋のグリーンをひとつ減らした。
いくつもある中で、どれを減らそうか悩んでいた。
そして、今朝、これに決めた。
一番長くこの部屋を満たしてくれていたこのグリーン。
ちょっと感傷的にもなるけど、これに決めた。
ーもしもし。
きみにとっては突然の話だよね。
何があったんだろうって思うよね。
でもきみは言葉を続けない。
きっと敢えて続けないんだろうね。
たぶんきみが何かの言葉を続けても、
ぼくはうまく説明できる、
そんなことはないと思うし、
きみもそんな気がしているんだろう。
そしてきみとぼくの間にさっきの「もしもし」がまだ浮かんでる。
ー気分転換だよ。少しグリーンが多すぎる。それだけだから。
でもなぜそのグリーンなの。
きみの思っていることがスクリーンから見える気がする。
そうだよね。そう思うよね。
だけどぼくはこのグリーンを減らすことにした。
今までありがとう。
そんな気持ちを込めて、きみと最初に買ったこのグリーンを写真に収めた。