きみのもしもし #406
参道の上から、神輿囃子が聞こえてくる。
近所の神社の秋祭り。
小さい神社のその小さい境内には、所狭しと出店が並び、
その中心で大人の神輿と子供の神輿、大小ふたつの神輿が威勢良く舞う。
神輿の後は仮設ステージでのカラオケ大会。
毎年の光景に毎年の進行。たぶん今日も変わらない。
「早く早く」
去年と変わらなくてもきみはぐいぐいとぼくの手を引く。
どこにそんな力があったんだろう。
驚くほどの力でぐいぐいとぼくを引く。
「去年までと同じ行事でも、同じじゃないのよ」
また不思議なことを口にする。
「神輿を担ぐ男の子もひとつお兄さんになっているし、
あなたもわたしも一年年を重ねているの」
そしてぼくの手を離し、にっこり笑ってきみは言う。
「今日はわたしの分のおみくじ引いてっ」
たしかにぼくはよく大吉を引くけど、いいのかな、自分以外の分を引いても。
「もしもし」
うん?
「わたしたち、一心同体、ね」
きみの視線の先には、今年も仮設のおみくじ箱が置いてある。
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