Archive for 12月 2015
きみのもしもし #419
きみに悲しいことがあったとき、ぼくはどうすればいいんだろう。
きみはきっと十分に自分の中で消化した後で、ぼくに知らせてくるんだろうな。
ー大丈夫、心配いらないよ。
ー今日もふつうに過ごしたし、明日もふつうを続けるの。
大切なことは、いつもきみから教えてもらってばかり。
せめてきみが悲しいときくらいは、ぼくもその中に入れて欲しいな。
ーだって悲しいことじゃないのよ。
ー少しだけ寂しくなったかも知れないけど、
ーけど、大丈夫。悲しくはないから。
きみの強さが羨ましくもあり、
きみの強さを危うくも感じる。
だから、その中にぼくも入れて欲しいな。
そんなぼくにきみは言う。
ーもしもし、大丈夫だから。
きみのもしもし #418
駅までの道、イヤフォンを外してみた。
空を見上げると、雲ひとつなく抜けるように青い。
鳥のさえずりとまではいかないが、
青信号のメロディ、バスのエンジン、踏切の遮断機。
いろんな音が耳に入る。
小さな子供を乗せた若いお母さんの自転車の呼び鈴。
ー今朝の街は色とりどりの音がするよ。
駅へのエスカレーターに乗っている間に、きみへ伝える。
ー今朝だけじゃないよ。
ー今まで気づかなかったな。
ーもしもし、それってきっと、とってももったいないよ。
ーそうだね。たしかに街の音もなかなか良いね。
そう返事を書きながら、ぼくはまたイヤフォンを着けた。
ーでも電車の中は音楽にするよ。
エスカレーターから降りると、ホームは暖かい陽射しに溢れていた。
きみのもしもし #417
ーありがとう。
急にきみにこの言葉を伝えたくなった。
LINEでもメールでも電話でもなくて、
直接きみに向かって伝えたくなった。
ぼくの中で何が起きたのだろう。よく分からない。
ただ、歩いていたら急に伝えたくなった。
今日誰かに優しくされたわけでもなく、
さっき誰かに意地悪されたわけでもなく、
ほんと突然、伝えたくなった。
どんな理由できみに会おうか。
とりあえず踵を返して、今来た道を駅に戻ろう。
駅まで行ったら、きみの家へと電車に乗ろう。
ーと、言うわけで今ここにいます。
とは言えず、きみの前にいる。でも、
「ありがとう」と、ぼく。
きみはにっこり微笑み、
「何か作ってあげるね。寒かったでしょ」
と言って、ぼくの手を取り、
「もしもし」
「うん?」
「ありがとうね」と、きみ。
きみへのありがとうが、またひとつ増えたみたいだ。
きみのもしもし #416
ー行くんじゃなかったっけ?
そのつもりだったんだけどね。
ーせっかくお誘い受けたのに、失礼しちゃう。
だよね。
でも、目が覚めたらもう終わってたんだ。
ー何回も電話したのに。
そう、全く気づかなかった。珍しく爆睡。
ー何してたの?ゆうべ。
それはまだきみには言えない。
言ってしまっちゃ、今月のイベントがサプライズではなくなってしまう。
ぼくらは昨日散歩に行った神社の手前で優しい笑顔のおばあさんに会った。
自然と挨拶を口にし、季節の話なんかをした。
見ず知らずのおばあさん。
そして一緒に境内に入った。
明日はこの境内で餅つきがあるから、ぜひいらっしゃいと誘われた。
ーもしもし、今度あのおばあちゃんに会ったらちゃんと謝るんだよ。
だよね。大変反省しています。
ーあーあ、お餅食べたかったなぁ。
大丈夫、きっとまた機会はあるさ。
昨日のおばあさんの笑顔を思い浮かべてみたら、
不思議とそう思った。