きみのもしもし #427
ーぼくが小さい頃はママがほっぺにキスしてくれて頭をなでてくれた。
今度は小さくなったママをだっこしてキスしてあげる。
それがぼくの役目。
ふと、思い出した。たぶん、こんな内容だったと思う。
「誰の言葉?」
「そこまでは思い出せない」
「そう。でも、いいね」
「ぼくには無理だな」
「ほんとはとても簡単なことなのにね」
きみは珈琲をひとくち口にした。
「あなたはそれを避けようとしている」
ぼくも珈琲を口にした。
「何かしら不安なんじゃないの。でも大丈夫、わたしがついてるから」
不安か、それはなんだろう。
きみはそんなぼくの思いを知ってか知らずか、
読みかけのファッション雑誌のページをめくり、
「もしもし、これ買って。今年の春の流行なの」
屈託のない笑い顔を見せる。
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