Archive for 2月 28th, 2016
きみのもしもし #428
少し値の張る赤ワインを準備したらしい。
昼間からアルコールですか。
バルコニーに椅子を出し、テーブルには純白のクロスを掛ける。
夏の陽射しの中でよく冷えた白ワインを飲むことはあっても、
まだ2月の今日、バルコニーでグラスを傾けるとは思ってもいなかった。
ーお祝いだから。
きみがアルバムをテーブルに広げる。
ぼくは頷き、その写真を覗き込む。
ーこれからもよろしくね。
こちらこそ。
ーゆっくりでいいの。
なにが。
ーとにかく前に進んでいれば。
きみはワインが注がれたグラスを持ち上げる。
ーそれでいいの。
ぼくもグラスを持ち上げる。
ーもしもし。
きみはその先、言葉を続けない。
季節外れの暖かさ。
赤ワインを通った陽射しが、少しだけクロスの色を桜色に染める。