Archive for 4月 2016
きみのもしもし #436
新しいノートがきみから届いた。
ーそれね、万年筆でも滲まないのよ。
どういう風の吹き回しなんだろう。
ー雑貨屋さんが目に入ったの。
ーそこにそれがあったのよ。
ー文房具好きでしょ。ふだんでも万年筆使うでしょ。
ーそれいつでもどこでも使えそうでしょ。
確かに携帯性も良いサイズだ。ありがたい。
ーもしもし。あなたはどんなことから書き始めるのかな。
きみがワクワクしてそうだ。
では、それに応えるように。
まずはきみへのラブレターの練習に使うことにしよう。
でもぼくは「さぁね」とだけきみに答えた。
きみのもしもし #435
「どこも壊れてないし、何も落ちてこなかったけど、ずっと寝れなかったの」
やっと連絡がついたきみの声は、やはり少し重たい気がした。
「ううん大丈夫よ。声が聞けて、わたしの方こそ安心したわ」
ほんの数日前にカフェで話をしていたのが、もうどれだけ前のことだったんだろうと、
勘違いをしてしまうほど、きみの声が遠くに聞こえた。
「早く帰ってもっと安心させたいんだけど。いいかな、もう少しだけこっちにいても」
何かあるんだね。
「こっちにいる友だちに会ってきたいの」
そうだね、顔を見るだけでもお互いに元気になるよね。
「わたしは元気。だからこの元気を分けてあげたいの」
いいことだね。でも連絡だけはもらえるかな。
「もちろんっ。1日一回はLINEするから」
きみの口からいつもの「もしもし」が出てこない。
やっぱり疲れているんだよね。
きみは「また明日ね」と言い残し電話を切った。
きみにいつもの「もしもし」が戻りますように。
きみが友だちと会えますように。
そしてみんなの愛する人の無事が確認できますように。
きみのもしもし #434
久しぶりにお店に行ったら、きみがいた。
ーもしもしっ、遅いぃ。
遅いと言われても、約束してないでしょ。
ー約束なんて必要ないもん。
会いたいと思ったときに、待てるお店があるのはいいね。
ー会えなくても、それはそれでいいのよ。
来るかな、来ないかなとマスターと話ながら待つのもいいよね。
そんなお店は一軒でいいと思っていた。
二軒も三軒もあると、せっかく会いたいと思ってもすれ違ってしまいそう。
でも、その一軒すらなくなることだってある。
さてとそんなんなったらどうしましょうか。
きみもぼくも考え込んでしまう。
ーそのときはそのとき。風が吹くわよ。
そう言って、きみは何杯めかのおかわりを頼んだ。
きみのもしもし #433
ー親友の定義ってあるのかな。
突然のきみの問いかけに一瞬考え込んでしまう。
そういえば小学生の頃、先生に親友の名前を書いてくださいと
紙を渡された記憶がある。きっと今じゃあり得ないことなんだろうけど。
ーそれであなたは誰の名前を書いたの?
白紙で出した。
だってみんな友だちだったもん。親友なんてカテゴリーは思いもしなかった。
でも先生からは何も言われなかったよ。
友だちは友だち。
すべて何でも何があっても、一緒に笑って泣いて喜んで。
それだけのことさ。
ー大人みたいな損得勘定、嫉妬心はなかったものね。
大人が勝手に作ったんだよ、親友なんて言葉。
だから納得できる定義なんてないとぼくは思うよ。
ただ強いて言うならきみが言った通り、
嫉妬心なく心から一緒によろこんでくれる友だちのことじゃないの。
ーこの歳になって、いるかなぁ。
ぼくはいるよ。ぼくはそう信じてる。友だちはみんなそうだと。
ーもしもし。
ん?
ーありがとう。