きみのもしもし #438
その人に会いに行った。
テーブルの上に広げられたたくさんの懐かしい写真。
写真に写ることが少なくても、集めるとこんなにもあるものなのかと、
その人の顔を見ながら思った。
釣りもやってたんですか。
どんなに付き合いが長くても知らないことはあるもんだな、
知らないことがまだまだ出てくるのかなと、
その人の顔に聞いてみた。
ずっとその人の顔を見ていたぼくにきみが聞いてくる。
「もしもし、これはあなた?」
うん、出会ってすぐの頃のぼく、若いでしょ。
ぼくは照れ笑いを浮かべ、またその人の顔を見る。
「でも、あなたと一緒に写ってる写真がないね」
今となっては残念だけどね、
どちらかが写真を撮っていたってことさ。
そうですよね、とぼくは遺影のその人の顔に確認をする。
「じゃあこれはあなたのカメラに向かって笑っているのね」
きみのその言葉を聞いて、なぜだか目頭が熱くなった。
ぼくが写真を始めたルーツがここにあるのかも知れない。
その人の笑っている顔を見て、そう思った。
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