Archive for 6月 2016
きみのもしもし #445
「昨日はね、変えられないのよ。デロリアン号を作らない限りね」
きみが訳知り顔で言葉を続ける。
「そしてね、明日のことはね、誰も分からないの」
デロリアン号がない限り?
「そうよ」
「だから、昨日のことを悔やんでも仕方ないし、そんな時間はもったいないの」
「明日のことを心配しても、何かとんでもないことが起こるかも知れないし」
「だから今日なの」
「今日を笑顔で一生懸命楽しむとね」
「明日には今日が充実した昨日になって、明日が楽しい今日になるの」
「もしもし、聞いてる?」
うーん、デロリアン号作ろうかな。
「それもいいと思う。でも、それは今日からやってね」
「すると今日が充実するから」
今回はどんな本を読破したんだろうね。
読破するたびにきみは楽しそうに話してくれる。
きみのもしもし #444
きみの驚いた顔が面白かった。
びっくりさせたのは申し訳ないけど、
つい、大きく笑ってしまった。
「失礼ねっ」
と言いつつ、きみも笑い出している。
やっぱり、きみの笑い顔はいいな。
出されたハイボールをきみと軽く重ね、
まじまじときみを見る。
「会うたびに何かサプライズを持ってくるのね」
きみもハイボールを口にする。
今夜のきみは飲みっぷりもいい。
やはり今夜はきみに会って正解だな。
ぼくもきみに習ってゴクゴクと喉を潤す。
「ねぇこの後、どこか行かない?」
いいねぇ。
「もしもし、でも変なこと考えちゃダメよ」
きみの勘は少しだけ鋭い。
まぁ今夜はいいか。
きみがここにいて、ぼくとお酒を酌み交わす。
それだけで十分なんだろうな。
ぼくらは早くも空になったハイボールのお代わりを頼んだ。
きみのもしもし #443
ー珍しいね。
と、きみが返信してきた。
そう言えば、そうだね。
と、プルを開けたビール缶を見ながら答える。
確かに自宅でビールは珍しいな。
外でビールを飲むときも最初の一杯だけがいつものパターン。
続きはビール以外。
一人だとそのビールも頼まず、大概ジントニックから始める。
そしてマティーニのオンザロックに移る。
自宅だと、休日の暑い午後はベランダでジンをオンザロックにする。
そろそろそんな季節か。
キンキンに冷やしてとろりとしたジンが本当なんだろうけど、
なぜだろう、オンザロックにしてしまう。
ーもしもし、普段のそんな飲み方も褒めやしないけど、
きみの文字間から何やら呆れ顔が見て取れる。
ーいつもと違うってことは、いつもと違うってことよね。
そして、呆れ顔の向こうには心配顔が見え隠れする。
大丈夫だよ。ジンが切れてるだけだから。
ーなら、いいんだけどさ。
どうしてそんなにいい勘してるんだろうね。
でも、ほんと大丈夫。
ぼくは飲み干したビール缶を軽く潰した。
きみのもしもし #442
「ほら、そこ」
きみが視線で指し示す。
何がそこにはあるんだろう。
何がそこにはいるんだろう。
「よく見て」
新緑の木立の中に同化するように何かいる。
ほー、なるほど。
「静かにね。気づかれたら飛んでいっちゃうかも」
きみの視線の先にあるものが動いた。
ぼくらに気づいたのではなく、
枝葉の中にちょっとした虫でも見つけたのだろう。
ちょんちょんっと枝葉を移動した。
「もうこの時期になると鳴かないのね」
これよりもこんなに近くにいるんだね。
「もしもし?知らなかったの」
きみは少し驚いたようにぼくに振り向く。
「毎年春先にはここいらでも鳴いてるよ。ホーホケキョって」
きみとのそんなやり取りに気づいたのか、
一瞬ぼくらを見るような仕草をして、
そのウグイスは飛び立った。