Archive for 8月 2016
きみのもしもし #454
「偶然なんてないのよ」
ー街中で知り合いにばったり会っても偶然じゃないの?
「うん、必然なの。必ず何かが関係してるから。
それに気づいてないかも知れないけど。
だから、すべてのことを前向きに考えてるとね、
とっても素晴らしい事に出会えるの」
ーそれも必然?
「そう、偶然じゃない。
起こるべくして起こるのよ、とっても楽しいことが」
ーきみとの出会いは偶然だと思ってたけどなぁ。
「もしもし、違うわ、出会うべくして出会ったのよ」
きみは一点の曇りもない目でそう答える。
ぼくは何だかとても照れ臭くなってしまう。
きみのもしもし #453
寝不足なんでしょう、ときみが言う。
そうだろうね、とぼくは受け流す。
きみはテレビの前でリビングのフロアーに横たわる。
ぼくはテレビの前に椅子を配置しそこに陣取る。
腰に悪いわ、クッション取って。
クッションはふたつがいいな、ひとつは枕にするから。
きみは完全に横になって観る体勢だね。
こっちに来れば、ときみが上目遣いでぼくを誘う。
でもね、きみと一緒に横になって観るときっと寝ちゃうんだよ。
もしもし、やっぱり寝不足なんだ。
そうだよ、寝不足なんだから。
ぼくらは互いに寝不足を自慢している。
そして彼の地での未明の快進撃に酔いしれる。
きみのもしもし #452
ーあなたはどんな時も笑っていてくれるかな。
え、どんな時もかい?
ーうん、大きく笑わなくていいから、微笑んでいてね。
と、きみのほうが微笑んだ。
笑う門には福来たるってことかな。
きみは微妙な微笑みで、
ーもしもし、あなたの笑顔はね、わたしの憂鬱をひとつずつ
溶かしてくれるんだよ。そのこと、忘れないでいてね。
と、ゆっくりとその言葉を口にした。
何かあったんだね。
きみはただ薄く微笑んでいる。
ぼくはただゆっくりと頷いた。
きみのもしもし #451
少し離れたところまで花火を観に来た。
きみといつも行っていた恒例の花火大会が今年からしばらく休止だという。
ーしばらくってどのくらいかなぁ。
誰も分からないからしばらくなんだと思うよ。
ーやめたって言うとみんなが落胆するからじゃない?
きみは優しい解釈をする。
そんなぼくらは今まで行ったことのない花火大会に足を伸ばすことにした。
ーちょっとだけ電車に揺られただけなんだけど、なんだか旅行をしているみたい。
そういえば、最近一緒に旅行に行ってなかったね。
ーもしもしぃ。最近じゃなくて、ずーとだよ。
そっか。
いつもぼくらはそれぞれが好きなところにふらりと一人、旅に出る。
きみが一発めの大きな打ち上げ花火を観て言った。
ー一緒の旅行、たまにはいいかも。
きみの手がぼくに触れる。
ぼくの手もきみに触れる。