Archive for 9月 2016
きみのもしもし #458
ー晴れたね。
そうかな。
ーだって雲の隙間に青空が見える。
確かにそうだね。
ーじゃあ行こうよ。
うん行こう。
そしてぼくらは水上バスに乗ってみた。
銀河鉄道999をイメージして造られた最新型の水上バス。
今まで乗ったことのある水上バスとはひと味もふた味も違う。
上を見上げると、ガラス越しにさっきの青空が見える。
アルコールとジェラートをテーブルに置き、
40分の船旅を楽しむ。
いい1日になりそうだ。
ーもしもし、わたしの提案だからね。
きみはかなり自慢げに、
さっきよりも青空の割合が多い空を指さした。
きみのもしもし #457
左手首をトントンと叩く感触。
またオモチャを手に入れたのねと、きみは半ばあきれ顔。
でもね、思っていたより少しだけ便利なんだよ。
ずっと買わなかったくせに。
そうだけどさ。
昔々、葡萄を取れなかったキツネさんのお話あったよね。
それとはちょっと違うと思うけどなぁ。
あっ。
なに?
雨雲が近づいてるってさ。
もしもし、それって便利なの?
うん、だから雨雲が行き過ぎるまでここでこのままお茶してよっ。
なんだかなぁ。
きみのあきれ顔はまだ続いている。
きみのもしもし #456
電車から急ぎ降りて、ホームできょとんとしていた。
ここはどこ?
あれ?なんで降りたんだ、せっかく座れてたのに。
さほど量は飲んでいないと思っていたが、
最近遠ざかっていたのと電車の揺れで、想定外の行動を取ったようだ。
とにかく次の電車までベンチで休むことにしよう。
ーもしもし、お客さん、そこの彼氏、電車なくなっちゃいますよ。
呆れ顔でぼくを揺らすきみが隣に座っていた。
いつから隣にいたの?
ーそれはわたしのセリフ。いつから座っていたの?
ここはどこ?
ーなんだ、わたしを待ち伏せしていたんじゃないのね、残念。
ぼくらはきみの駅から電車に乗って、ぼくの駅まで移動する。
きみはぼくを家まで送り届けてくれるらしい。
また一つ、頭が上がらなくなったなぁ。
きみは隣で楽しそうに微笑んでいる。
きみのもしもし #455
ーもしもし、こうやってギュッと抱きしめられるとね、リラックスできるんだよ。
待ち合わせのカフェに向かう途中で、向こうから歩いてくるきみを見つけた。
右手を上げて、きみにぼくの存在を知らせると、
きみは軽やかに距離を縮めてきて、直前でぼくに飛びついてきた。
そして、肩越しに言ったのが「ギュッとしてリラックス」
ーリラックス感、ある?
ギュッとしたままきみが聞いてくる。
人の行き交うこの歩道でのギュッはかなり照れくさい。
ーねぇねぇ、どう?
どうと言われても、おや、石鹸の香り。
照れくさいけど、この香り、いいな。
これもひとつのリラックスかな。
きみはまだギュッを解いてくれそうもない。