Archive for 12月 2016
きみのもしもし #471
きみの出番を待つグランドピアノ。
その前にきみはさっそうと、
でもよく見ると少しだけはにかみながら現れた。
漆黒のドレスに足元は真っ赤な靴。
映画「薬指の標本」でのセクシーな赤い靴を思い出した。
ーもしもし、去年のリベンジするんだからね。
きみは昨日そう言っていた。
一年分の頑張りが確かに伝わる演奏だった。
来年は?
ー今年の気づきを克服するの。
ストイックなアスリートみたいだ。
じゃ来年も予定を空けとくよ。
長い付き合いの中で、初めて聴くきみのピアノ。
ホールを後にし、クリスマスの雑踏の中、
ぼくはドレスアップしたきみの姿を思い出し、
演奏の余韻までも楽しんでいた。
きみのもしもし #470
懐かしいカウンターで少し酔いが回ったぼくは、
きみの横顔を見つめる。
つき合い始めた頃は、こんな場でもさりげなくキスしてたものだなと。
そんなことも思い出しながら、グラスに手を伸ばす。
「もしもし、なぁに」
ぼくの思いに気づいたのか、
きみははずかしそう、でもうれしそう。
きみもグラスに手を伸ばし、ぼくのグラスに重ねた。
きみのもしもし #469
果たせなくなった約束がまたひとつ増えてしまった。
増やしたのはぼく。
約束は先送りなんてするもんじゃない。
仕事だとそんなこと当たり前なのに、
どうしてきみとの約束だけ先延ばししてしまうんだろう。
そして、してしまったんだろう。
いつでも会えると高を括っていたんだな。
人生なめてる、人をなめてる、きみとの関係をなめてる。
そうかもね。
でも事実として果たせなくなった約束がまたひとつ。
今夜は酔えそうにもない。
ーもしもし、大丈夫だよ、わかってるから。
ふと、きみの声が聞こえた気がした。
きみのもしもし #468
きみの夢を見た。
目が覚めて夢だと知った。
窓の外は暗くまだ目覚ましが鳴る時間じゃないから、
もう少し寝れるんだろうけど、
きみはまた夢に現れてくれるかな。
夢に現れて、会話の続きをしてくれるかな。
昔々は夢の続きをよく見れたけど、
最近はそんなこともなく、
それよりも何よりもきみの夢を見るのが久しぶりで、
なんだか付き合い始めた頃の、
そんなシュチュエーションで、
ぼくは少しドギマギしていた。
そして今、思い出した。
当時からきみは「もしもし」って言ってたんだ。
夢の中の付き合い始めた頃のきみが、
そう言っていたから間違いない。
なんだか今日一日が幸せになれる気がした。