Archive for 1月 2017
きみのもしもし #476
「ねぇ、あなたは良い人?悪い人?」
きみが小首を傾げている。
さぁどうだろう。
「悪い人ではないと思うけど。」
「んーっ、じゃあ、あなたは魅力的な人?退屈な人?」
そうだなぁ。
「退屈な人にはなりたくないなとは思っているよ。」
「そうよねぇ。やっぱりあなたは無難な人生を歩んでいるのかなぁ。」
ぼくなりの人生をただ歩んでいるだけだと思うけど。
混んできた店内、カウンターで横に座るきみは残りのカクテルを
一気に飲み干して、
「でも、それがあなたなんだものね。」
そう言うと腕を組んできた。
「もしもし、わたしのことはどう思う?」
ほんのり赤くなったきみの頬が愛らしかった。
きみのもしもし #475
「あのときどうしてわたしに電話して来たの?」
懐かしい話を改めて確認しようとしているのかな。
きみの「もしもし」が聞きたくなってね、
とは何だか言いづらい。
だってきみの「もしもし」に対する思い入れは、
きみには伝えていないから。
きみは気づいているだろうけど、
ぼくはこれからも伝えることはないだろう。
「ぼくは誰かに電話せずにはいられなくて、
だからきみを選んだんだ。」
しばしの沈黙。
「もしもし、それってStarmanだよね」
おや?簡単に分かってしまうものなんだね。
ーまったくあなたって。
と言うきみの表情が電話越しに見えるようだ。
きみのもしもし #474
「あっ仕事してるっ」
カフェでぼくのMacBookを覗き込んだきみ。
仕事は会社でするものよとばかりの目つき。
きみの到着が予想より早かったとも言いづらい。
「その表現だめっ」
そしていきなり作成中の企画書にツッコミを入れてくる。
「計画1じゃなくて、Plan Aにしなよ」
横文字ねぇ。
「だって数字は10までしかないけど、アルファベットは26文字」
言わんとすることがよく分からない。
「もしもしぃ。Plan AがダメでもPlan Bを起動して、Plan Cも有効にできるの」
きみは得意げにぼくのMacBookを取り上げた。
どこの誰の受け売りなんだろう。
そんなにたくさんのプランを考えることはないだろうに。
ー失敗を恐れず前へ進め、アルファベットはまだ25文字もあるんだから。
それが本当の意味だった気がするなぁ。
とにかくMacBookは今きみの手の中にある。
きみのもしもし #473
きみは何でもないことでぼくを笑わせてくれる。
久しぶりにきみと居酒屋に入り、たくさんの日本酒を酌み交わす。
満面の笑顔が目の前にあり、屈託無くきみは笑う。
普段の会話の延長、でもきみは笑う。
くいっくいっと徳利を開け、次の銘柄に悩んでは笑う。
旬のおつまみを頼むけど、まだ旬には早いと、そこでも笑う。
少し赤みを帯びた頬で、身振り手振りも少し大きくなり、そしてまた笑う。
そんなきみをフィルムに収めようとカメラを取り出すと、
きみはまた笑う。
「もしもしぃ、わたしが撮るぅ」
フルマニュアルのぼくのカメラ、きみは悪戦苦闘、でも笑っている。
そう、そんなきみの全てにぼくもつられて笑う。
笑うっていいなぁ。
素直にそう伝えると、きみはまた笑う。
きみのもしもし #472
「愛はお金では買えないけれど、
お金で表現することも時には必要です」
きみが突然、何かを棒読みしだした。
ほー、今日のぼくの運勢ですか。
「明けましておめでとう」
はい、おめでとう。
「昨年もお世話しました。今年もお世話してあげます」
そうだね、ありがとう。そして、よろしく。
「では」ときみはにこやかに両手を差し出す。
そしてぼくに微笑みかける。
何だろう。
「もしもし、もう一度運勢読み上げましょうか」
あー、そうね。
ぼくは仕舞っておいたポチ袋を取り出した。